| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-040  (Poster presentation)

ハウチワカエデの花粉を出さない雄蕊の機能

*辻優作, 松井淳(奈良教育大学)

ハウチワカエデは花序ごとに両性花と雄性花をもつ、雄性両性同株と呼ばれる性表現のカエデ属樹木である。これらの両性花の雄蕊は葯が裂開しないため、花粉を出さない。そのため、形態的には両性花だが機能的には雌性花として扱われることが多い。

このような花粉を出さない雄蕊には雄機能がなく、それでいて生産や維持にはコストが掛かる。それでも保持をする理由には、何か別に機能があり適応度を向上させていることが考えられる。訪花昆虫は花粉を得ることを目的の一つに訪花をすることから、花粉を出さない雄蕊が訪花昆虫を誘引する機能をもつ可能性がある。そこで、本研究では野外実験を行い、ハウチワカエデの花粉を出さない雄蕊が昆虫を誘引する機能をもち、果実生産の成功に貢献しているかを明らかにすることを目的とした。

調査では、除雄処理花序と無処理花序について、訪花昆虫を観察し滞在時間と30分間での合計訪花回数を記録した。果実期には、花序ごとの果実数、果実重量を記録した。これらのデータに基づいて、除雄処理によって訪花回数や滞在時間、果実数や果実重量が減少するか、訪花回数や滞在時間の減少に伴って果実数や果実重量は減少するかを検証した。

その結果、ハウチワカエデの両性花の花粉を出さない雄蕊に、ハエ目の訪花を誘引する機能とハチ目の滞在時間を長くする機能の二つがあることが明らかになった。しかし、これらの機能による昆虫の振る舞いの違いは、果実生産に影響するほど有意に受粉の成功率を上げているとは言えなかった。

従って、ハウチワカエデの花粉を出さない雄蕊に機能があることは確認できたが、その形質が適応的なものであるとは言えなかった。しかし、送粉昆虫が減少するなどの環境変化によって訪花1回あたりの価値が相対的に増大した場合、花粉を出さない雄蕊の昆虫の誘引機能は適応度を向上させる可能性があることを本研究の結果は示唆している。


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