| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-050  (Poster presentation)

分布北限以北におけるシラカシ稚樹の耐凍性と生残過程

*船木賢人(弘前大学大学院), 石田清(弘前大学)

常緑広葉樹であるシラカシは、福島県及び福井県以南に自然分布している。それらの地域よりも北方に位置している青森県には自然分布していないが、同県弘前市内に植栽されたシラカシの成木は十分に生存・成長できており、地表面に落ちた種子は発芽して樹高が約15cmの稚樹にまで成長している。本研究では、シラカシの持つ生理的な形質がシラカシの分布域を制限していると予想し、様々な地域の野外で生育しているシラカシの形質を調査した。シラカシの分布北限域付近では、エンボリズムや凍害によってシラカシの世代交代に問題が生じていることが考えられる。そこで青森県弘前市の成木・稚樹を用いて、冬期にそれぞれにエンボリズムが生じているのかを調査した。その結果、成木ではエンボリズムが生じていなかったが、稚樹では一部の通道組織でエンボリズムが生じていた。また稚樹の生残過程についてみると、多くの稚樹は発芽してからその年の冬期までは生存していたが、翌年の春期には枯死することが明らかとなった。これらのことから、冬期のエンボリズムはシラカシの分布域の決定に関与していると考えられる。更に青森県弘前市・福島県いわき市及び福島市・奈良県橿原市の成木・稚樹を用いて、冬期にそれぞれの葉や根の耐凍性を調査した。その結果、調査地域に関わらず稚樹の葉は成木の葉よりも耐凍性が低いことが明らかとなった。また、耐凍性は組織・器官によっても異なっており、稚樹の根は稚樹の葉よりも耐凍性が低いことも明らかとなった。しかし、シラカシ稚樹の耐凍性の限界を超えるほど気温や地温が低下することは本州の低標高域ではほとんど見られない。これらのことから、冬期の耐凍性はシラカシの分布域の決定には関与していないと考えられる。


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