| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-110  (Poster presentation)

ニホンミツバチの熱殺蜂球形成時の高温維持に関わる候補遺伝子探索

*上岡駿宏(東北大学), 鈴木啓(東北大学), 宇賀神篤(JT生命誌研究館), 山口悠太(玉川大学), 小野正人(玉川大学), 河田雅圭(東北大学)

ニホンミツバチApis cerana japonicaはオオスズメバチなどの捕食者に対し熱殺蜂球を形成する。このとき、数百匹のワーカーが捕食者を取り囲み、飛翔筋を緊張させて約46°Cの高温を発生させる。この高温状態は数十分間維持されるが、どのような分子メカニズムによりワーカーが高温を感知し、発熱を調節しているのかについては不明である。本研究では、熱殺蜂球形成の高温維持に関わる候補遺伝子を探索することを目的とし、RNA-seq法を用いて熱殺蜂球形成時・実験的温度上昇時(46℃)・常温時(31℃)の3条件におけるワーカーの遺伝子発現を測定した。熱殺蜂球形成時と常温時を比較して発現変化した遺伝子から、実験的温度上昇時と常温時を比較したときに発現変化した遺伝子を取り除くことにより、熱殺蜂球形成時に積極的に発現変化する遺伝子を絞り込んだ。脳・飛翔筋・脂肪体の3組織で熱殺蜂球形成時のみ発現が上昇している遺伝子にロドプシンとアレスチンが検出された。また、系統樹解析により、ニホンミツバチのロドプシン遺伝子はショウジョウバエのロドプシン6 (Rh6)と相同性が高く、アレスチンはショウジョウバエのアレスチン2(Arr2)と相同性が高いことが示された。ショウジョウバエにおいて、Rh6は幼虫時の温度選好性に関わるGタンパク質共役受容体として報告されており、また温度感受性チャネルであるTRPAシグナルの上流に位置することが示唆されている。一方、アレスチンはヒトにおいてGタンパク質共役受容体に結合して、そのシグナルを阻害するのと同時に、Gタンパク質非依存的シグナル伝達を活性化することが報告されている。したがって、ニホンミツバチでは、熱殺蜂球形成時にアレスチンがロドプシンに結合し、TRPAシグナルを阻害することにより、温度感知・調節を行っていることが示唆された。


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