| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-117  (Poster presentation)

ゲノムワイドに探る種間交雑に伴う淡水カジカの適応進化

*伊藤僚祐(京大院・理), 三品達平(京大院・理), 武島弘彦(東海大・海洋), 渡辺勝敏(京大院・理)

近縁種との交雑を介した適応形質の獲得は、突然変異と異なる適応進化のメカニズムとして近年注目を集めている。特に浸透交雑による環境耐性関連遺伝子の獲得は交雑集団が祖先集団と異なる環境へ進出することを可能とするため、交雑種分化(Hybrid speciation)のきっかけとなる。淡水カジカ(Cottus pollux種群)には、遺伝的に分化した、生活史や生息可能な水温が異なる2型(陸封性の大卵型と両側回遊性の中卵型)が存在する。この両者は基本的に別種と考えられ、西日本を中心にみられる側所的な分布域では、より低水温の上流側に大卵型が、下流側に中卵型が生息する。しかし、福井県南川において、中卵型系統のミトコンドリアDNAをもつ陸封性の集団(以下,南川集団)が存在することが知られる。南川集団は大卵型と考えられるが、通常大卵型が生息しないような高水温域に生息している。本研究ではカジカ南川集団の起源を解明し、さらに環境への適応実態を遺伝的側面から明らかにするために、RNA-seq分析を行った。南川集団および他地域の中卵型と大卵型を対象に、核DNA、mtDNA双方の系統解析および浸透交雑の検出を行い、浸透したと考えられる遺伝子群の機能的特徴を調べた。その結果、南川集団は大卵型が過去に中卵型から浸透交雑を受けて生じたことが明らかとなった。また40%近い遺伝子が中卵型から浸透・固定していると推定され、それらには水温適応に重要な代謝関連の遺伝子群が多くみられた。南川集団の高水温環境への進出には、中卵型との浸透交雑が重要な役割を果たしたと推察される。


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