| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-127  (Poster presentation)

海洋島に集団が定着できる理由を紐解く―モズの定着成功・失敗個体群の遺伝学的比較から―

*青木大輔(北大院・理), 松井晋(東海大・生物), 永田純子(森林総合研究所), 千田万里子(山階鳥類研究所), 野間野史明(総研大・先導科学), 髙木昌興(北大院・理)

海洋島に生物種の集団が定着するには、大陸などのソース集団からの個体の移住に加え、その集団が安定に維持される必要がある。創始集団の数や強いボトルネックの経験の有無などが集団の維持を左右すると考えられる。これを実証するためには同じような海洋島に定着成功・失敗した野外個体群で集団遺伝学的な検証をする必要があるが、実証例は少ない。本研究では約40-50年前にモズ Lanius bucephalusが移住した大東諸島と小笠原諸島父島を対象とした。前者では個体群が現在も安定して存在するが、後者では移住後、数十年で集団は絶滅した。すなわちモズは海洋島での定着の成功を左右した要因を探るのに適する。1998年及び2002-08年の大東諸島 (計約400個体)、1997年の小笠原諸島父島 (17個体)、1997-98年の北海道(36個体)に採取されたサンプルを用いた。核SSR17座の遺伝型を決定し、対象個体群の遺伝的集団構造や過去のボトルネックの有無の推定等を行った。

その結果、2つの遺伝的クラスター(AとB)が推定された。父島97年集団はクラスターAに由来し、遺伝的に均一であった。一方、大東諸島集団はA・B2つのクラスターに由来すると推定された。 ただし、集団形成への寄与は2つのクラスターで同等ではなく、各年で一貫してクラスターBが大きく寄与していた。父島では近年の顕著なボトルネックも検出されたが、大東諸島では強く支持されなかった。どちらの島でも、近交係数からは近親交配の存在は示唆されなかったが、父島で絶滅した個体群では、多くの個体の口腔内に泡状の膿腫が観察された。これはトリコモナスによる症状と考えられ、近親交配などと関連して見られる。遺伝的均一性の差が海洋島定着成功を左右したと考えられる。

海洋島のモズの集団ではボトルネックの有無や近親交配率の高さに加え、ソース集団やその数、移住頻度も影響している可能性があることについて考察する。


日本生態学会