| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-154  (Poster presentation)

大規模防鹿柵は森林性のアリに影響するのか? -設置後10年で見えた変化ー

*相場寿秀(京大院・農), 山崎理正(京大院・農), 高柳敦(京大院・農), 藤木大介(兵庫県立大), 井上みずき(日大・文理), 福島慶太郎(京大・生態研センター), 境優(中央大・理工), 阪口翔太(京大院・人環)

 近年、日本各地の森林でニホンジカの個体数が増加し、下層植生の衰退などの直接的な影響や、生息環境の変化を通した無脊椎動物への間接的な影響が報告されている。シカの被害を防ぐため防鹿柵が各地の森林に設置されているが、その多くは方形区のような小規模防鹿柵に留まり、集水域単位等の多様な森林生態系を含むような防鹿柵は限られている。本研究では環境指標種としてアリを対象とし、集水域単位での大規模防鹿柵の設置が森林性のアリに及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
 京都大学芦生研究林では2006年に集水域単位の防鹿柵が設置された。柵を設置した集水域(以下、柵内)と隣接する集水域(以下、柵外)で、柵の設置年である2006年と翌年の2007年(以下、設置年)、10年後の2016年と2017年(以下、10年後)にアリを採集した。設置年は柵内外で計77地点、10年後は計120地点を採集の対象にし、ピットホール法、リターサンプリング法、ベイト法の三つの方法で行い、環境要因として開空度を測定した。得られたアリの在不在データを用いて、柵内外、異なる地形(谷、尾根)間での種構成の差と変化を非計量多次元尺度法で評価し、柵の設置や地形が各アリの出現頻度に及ぼす影響を一般化線形混合モデルを用いて解析した。種数はChao2により推定した。
 種構成は谷尾根間で差が見られ、設置年よりも10年後の方がその差は大きかった。柵内外ともに種構成の年変化が見られ、特に柵内の谷において開空度の低下に伴った種構成の変化が見られた。森林型のアズマオオズアリとハヤシクロヤマアリの出現頻度は柵内で増加し、防鹿柵により森林型の種が好む安定した環境が形成されたことが示唆された。推定種数は柵外の谷で減少、柵内の谷で増加し、尾根ではともに増加したが柵外でより高い値となった。以上より、防鹿柵が森林性のアリに及ぼす影響は地形によって異なるため、集水域単位のような大規模な保護が重要であることが示唆された。


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