| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-170  (Poster presentation)

蝶の翅につけられたカナヘビの捕食痕

*太田真人(龍谷大・里山研), 野村賢吾(龍谷大・院・理工), 鶴谷峻之(龍谷大・院・理工), 遊磨正秀(龍谷大・理工, 龍谷大・里山研)

 蝶の翅はしばしば傷付いていることがあり、これは鳥などの捕食者による襲撃を受けた痕(捕食痕)だとされている。これまでに捕食痕の割合と捕食圧の関係などをみた研究が行われてきた。そして、それらの研究で捕食者とされていたのはほとんど鳥類であったが、トカゲ類も蝶を襲撃した際に捕食痕を付けることが知られている。また、鳥類の捕食痕は主にV字型であるに対して、トカゲ類の捕食痕は波型であり、傷の形が異なっている。そこで本研究では、トカゲ類が付ける波型の捕食痕に着目し、蝶とトカゲ類との関係性について調べた。
 はじめに、波型痕の割合とトカゲ類の捕食圧(トカゲ類の個体数÷蝶の個体数)の関係については、正の関係が見られ波型痕の割合がトカゲ類の捕食圧の指標として利用可能であることが分かった。次に、鳥類は翅の大きな蝶を襲撃しているという研究があり、翅が大きな蝶は胸部も太いためであるといわれている。しかし、空を飛ぶ鳥類と地表で主に生息しているトカゲ類とでは餌を襲うにあたって視点が違うのではないかと考えた。そこで、トカゲ類が蝶を襲うに際に翅のサイズと体サイズのどちらを重視しているのかを検証した。まず本研究での調査地でも蝶の前翅長と胸部幅には正の関係があった。次に無傷の蝶と捕食痕のあった蝶で前翅長、胸部幅それぞれに差があるのか解析した結果、前翅長、胸部幅ともに捕食痕のあった蝶の方が有意に大きく、太かった。その結果をふまえてV字型痕の蝶と波型痕の蝶の前翅長と胸部幅を比較した結果、前翅長はV字型痕の蝶の方が有意に大きかったが、胸部幅については有意な差は認められなかった。また、無傷の蝶と波型痕の蝶の前翅長と胸部幅を比較した結果、前翅長には差が認められず、胸部幅には有意な差が認められた。これらのことから鳥類は蝶の翅の大きさを見ているがトカゲ類は翅ではなく胸部の太さを見て襲う蝶を選択していることが示唆された。


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