| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-180  (Poster presentation)

干潟漁場生態系の底生生物群集の集合規則:入れ子構造と種の入れ替わり

*山田勝雅(熊本大学), 小森田智大(熊本県立大学), 竹中理佐(熊本県立大学), 相澤章仁(日本生態系協会), 諸熊孝典(熊本県水研センター), 黒木善之(熊本県水研センター), 内川純一(熊本県水産振興課)

沿岸域の干潟生態系は,生産性や水質浄化能力が高い「豊かで多様なハビタット(生態系)」という性格を有す反面,アサリをはじめとする水産物の「漁場」でもある.しかし,漁獲量が高いことはすなわち特定の種(漁獲対象種)の個体群サイズが大きいことを示しており,「多様性が高い」こととは対局な印象を受ける.本研究は漁獲が盛んに行われている干潟生態系の種多様性維持機構の解明と生物多様性保全を目指して,群集形成規則を解明することを目的とした.
群集形成規則としては,特に2つのパターン(要素)である,(1) 群集ごとに出現する種が入れ替わるturnover(種の入れ替わり)と,(2) 種数の違いに起因するnestedness(入れ子構造)に注目した.2要素に着目することで,例えば,(1) turnoverによってβ多様性が高い場合は様々な物理環境を含む複数のハビタットを総合的に保全すべきであり,逆に,(2) nestednessによってβ多様性が高い場合は種数の最も多いハビタット(コアサイト)を集中的に保全できる「保護区の設置」が望ましい,といった多様性保全に向けた方針を示すことができる.
対象地として九州最大の干潟の二枚貝漁場(アサリやハマグリ)である有明海の緑川河口干潟に注目し,過去約10年間継続して春と秋に100定点以上を空間網羅的に調査されたデータを解析に用いた.その結果,漁場の底生生物の群集構造は,turnoverが普遍的に生じているが,時折強いnestednessを呈すパターンを示した.また,強いnestednessを示した際には二枚貝漁獲量も高くなる傾向が見られた.このことは,漁場干潟の多様性保全においては,干潟内の環境異質性を高めていくことが普遍的に求められるが,高漁獲の期待のためには「保護区」の様なコアサイトを設置することが望ましいことを示唆している.高い環境異質性を有す干潟内に「漁場(保護区)」を設置することで「生物多様性の高い豊かな漁場」が実現されるのかもしれない.


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