| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-220  (Poster presentation)

開拓者は臆病者:島に自然移入したモズの個性

*濱尾章二(国立科博・動物), 吉川翠(国立科博・動物), 山本裕((公財)日本野鳥の会), 鳥飼久裕(NPO法人奄美野鳥の会), 伊地知告(喜界町)

動物は行動の頻度や強度が個体ごとに一貫する性質を持つ。これは個性(personality)と呼ばれる。リスクを冒す大胆な個体は攻撃性が強く探索行動が活発であるというように、異なる文脈に現れる行動の間には多くの場合相関がある。新たな環境に進出するのは大胆な個体だと言われる。鳥類のモズはごく少数の島を除いて南西諸島には越冬に訪れるのみだが、奄美群島喜界島には2000年代に定着し、2012年には繁殖が確認された。自然移入後、歴史の浅いこの個体群のモズがリスクを冒す大胆な個性を持つかどうかを調査した。捕食者に対する警戒性を測るため、ヒトが近づいて行き鳥が飛び立った時の距離(FID: Flight initiation distance)を測定し、本州(長野県)の個体と比較した。FIDに影響を及ぼす可能性のある (1) 個体の性、(2) とまっていた高さ、(3) とまっていた場所(樹木、低木、電線、ポール)、そして (4) 道路(自動車が多く走るであろうセンターラインがある道路)からの距離も合わせて記録し、調査地(喜界島-長野)を含む5つの説明変数がFIDに影響しているかどうかを、GLMを用いて検討した。その結果、調査地がFIDに影響していた。FIDは喜界島で平均48.1 m(範囲: 12.0-107.3 m, n = 30)と、長野の平均23.6 m(9.7-46.3 m, n=28)よりも大きかった。とまっていた高さ、場所、道路からの距離はFIDに対し統計上有意な効果を持たなかった。これらの結果から、喜界島のモズは捕食者への警戒性が強く、用心深い性質を持つことが示唆された。本来の分布域とは捕食者相が異なる亜熱帯の島嶼では、用心深い個性の個体が定着しやすいのかもしれない。


日本生態学会