| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-260  (Poster presentation)

多摩川支流でのヒガシシマドジョウの生息環境について

*米山晃弘, 吉川朋子(玉川大学 農学部)

 ヒガシシマドジョウは,河川の改修工事等の影響を受け,近年生息地が減少しているが,保全対策に必要な都市河川での情報は不足している.本研究では,河川の堰で区切られた区間において,ヒガシシマドジョウの産卵期と非産卵期に利用する環境を明らかにし,都市河川における今後の保全対策に役立てることを目的とした.
 調査は多摩川水系の平井川の下流域で行った.生息に適した環境を知るために,産卵期(4-6月)と非産卵期(7-9月)に採捕を行い,各個体の採捕位置の水深,流速,底質,岸からの距離,岸辺の場合は植物による被覆率を調べた.また,個体の移動の状況を知るために,非産卵期にカゴ網で捕獲し,標識後に捕獲場所で放流し,最初の放流地点からの移動距離を算出した.
 産卵期,非産卵期とも流れが遅く,植物に覆われた,岸寄りの浅瀬で多くの個体が確認された.このような環境は水中や空からの捕食者を回避でき,卵や仔魚が流されにくく,成魚にも未成魚にも利点があると考えられる.詳しく比較すると,産卵期よりも非産卵期の方がより水深が深く,流れが速く,礫サイズの大きい場所を利用しており,水深と流速は体長との相関も見られた.本種は,堰で区切られた河川内において,産卵期は産卵により適した浅瀬を多く利用し,非産卵期は,体長に応じた好適な場所を利用すると考えられた.
 非産卵期の個体の移動は,調査区の上流域から中流域は下流へ移動する傾向があり,下流域ではほぼ移動が確認されなかった.流速は上流から下流にかけて遅くなる傾向があり,受動的に移動している可能性が考えられた.
 この調査により,本種は区切られた河川内で,時期により利用する環境を変えていることが明らかになった.これは堰などにより移動が妨げられる都市河川において,短い区間に多様な物理的環境を創出することが淡水魚の保全に必要であることを示唆するものである.


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