| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-007  (Poster presentation)

樹木成長制限要因としての光と栄養塩の重要度は土壌老化にともない変化する:ボルネオ熱帯山地林の例

*相場慎一郎(鹿児島大・院・理工), 北山兼弘(京都大・院・農)

 極相林では、土壌老化にともない、光よりも栄養塩の方が樹木の成長をより強く制限するようになると予測される。ボルネオ、キナバル山の標高約1700 mの熱帯山地林に設定された土壌年代が異なる2つの1 ha調査区を比較して、上記の予測を検証した。土壌リンおよび窒素の可給性は土壌年代が古い調査区で低下する。光環境を比較すると、林床では有意な差がないが、高さ9 m以上では土壌年代が古い調査区の方が明るくなっていた。
 両調査区ではいずれもフトモモ科とブナ科が優占するが、土壌年代が古い調査区ではクスノキ科が減りマキ科が増加していた。幹数密度・胸高断面積・地上部現存量は、土壌年代が古い調査区で減少した。林冠に対して樹冠が占める位置を区別して樹木の幹直径成長速度を比較すると、土壌年代が古い調査区の方が下層木の成長はよかったが、樹冠が垂直方向に露出した林冠木の成長は悪かった。
 両調査区には合計173種が出現した(幹周囲長15 cm以上)。そのうち67種が両調査区とも出現し、土壌年代が古い調査区で胸高断面積が大きかったのは32種、小さかったのは35種だった。両調査区ともに幹数が20本以上存在したのは8種あった。この8種の個体群構造と成長速度を見ると、5種では土壌年代が古い調査区で胸高断面積がほぼ半分かそれ以下に小さくなり、さらにそのうち4種で最大サイズが低下し、成長速度も低下する傾向があった。残りの3種は両調査区で胸高断面積に顕著な違いはなく、成長速度の低下もみられなかったが、最大サイズは低下していた。
 以上の結果は、樹木成長制限要因として重要な要因は土壌老化にともない光から栄養塩へと変化するという冒頭の予測を支持する。貧栄養土壌では多くの樹種で光量子利用効率が低下し、土壌老化にともない光量子利用効率が高い種から貧栄養耐性が強い種へと種組成が変化すると考えられる。


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