| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-057  (Poster presentation)

雌性両全性異株植物における雌雄繁殖成功度の評価 – 両性花はどれだけ雄花に近いのか?

*柴田あかり(北大・環境), 亀山慶晃(東京農大・地域環境), 工藤岳(北大・環境)

雌性両全性異株性は個体群内に雌株と両性株が共存する繁殖システムであり、被子植物においては両全性から雌雄異株性への進化の中間段階とされている。両性株の繁殖成功は種子生産(雌機能)と花粉親としての貢献(雄機能)から構成され、両要素を合わせた適応度が高い表現型が有利となる。これまでの研究により、ナニワズの両性株はまれにしか種子を生産せず、両性種子の適応度は自殖による近交弱勢の影響により雌株の約半分であることが示されている。もし適応度の低い種子生産がコストとなり、不稔個体(機能的雄)の方が高い繁殖成功度を得ているのであれば、両性株は雄株へとシフトするはずである。本研究は、両性株の雌雄繁殖成功度と種子生産コストから、ナニワズにおける雌性両全性異株性の維持機構を明らかにすることを目的とした。
 自然条件下での雌雄繁殖成功度を評価するために、隔離個体群内の各個体の生産種子数と花粉親となった種子数を調べた。花粉親の推定はマイクロサテライト遺伝マーカーを用い、個体間の地理的距離を考慮して雌雄繁殖成功度と表現型(花数・花粉数)の関係を評価した。さらに、北海道内の8個体群において授粉実験を行い両性株の雌機能を評価した。
 調査個体群内で生産された593種子のうち、114種子について花粉親が特定された。花粉親としての繁殖成功度は、周囲の雌花密度と自身の花生産数に依存していた。両性株の雄成功度と総繁殖成功度は、種子生産を行った個体と行わない個体間で違いがなかった。両性株の種子生産コストは一般に小さく、少数の種子生産は翌年の花生産には影響しなかった。また、調査した全ての個体群で結実能力を持つ両性株が存在した。以上の結果から、現在のナニワズ個体群には結実能力を有する両性株が排除されるほど強い選択圧は働いておらず、低い種子生産能力を有する両性株と雌株からなる雌性両全性異株性が維持されていると考えられる。


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