| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-064  (Poster presentation)

落葉フタバガキ林で共存するTerminalia alataのフェノロジー異型

*伊藤江利子(森林総研), Chann, Sophal(カンボジア森林局), Tith, Bora(カンボジア森林局), 古家直行(森林総研), 大貫靖浩(森林総研), 飯田真一(森林総研), 清水貴範(森林総研), 玉井幸治(森林総研), 壁谷直記(森林総研), 八木貴信(森林総研), 清水晃(森林総研)

カンボジア・クラティエ州の季節性熱帯落葉林に設定した4ha毎木調査プロットで樹種分布と展葉フェノロジーを調査した。本プロットには2つの形態異型Terminalia alata(Combretaceae)が存在し、これらは互いに展葉フェノロジーが異なっていた。葉裏に毛が密生する有毛タイプは11月から4月まで続く乾期の半ば(2月)に展葉した。この展葉フェノロジーは林分で卓越する落葉性フタバガキ科樹種(Dipterocarpus tuberculatus, Shorea siamensis, S. obtusa)と同一で、林分の典型である。一方、新葉展開時から一貫して毛がほとんどない無毛タイプは雨期開始から3か月経過後に新葉を展開した。また、林分内で展葉がこれほど遅いのは無毛タイプT. alataのみであった。二異型は微地形的な分布が明瞭に分かれていた。4haプロットを10x10mに分割した400コドラートのうち、有毛タイプと無毛タイプはそれぞれ44と181コドラートに出現したが、二異型が共存していたのは4コドラートであった。有毛タイプの分布は土層が厚い平坦部に限られており、平坦部内でも優占度は高くなかった。一方で、無毛タイプは土層が薄い丘陵部で優占しており、土壌水分制限に適応していることが示唆された。無毛タイプT. alataが示す独特な展葉フェノロジーは、カンボジア落葉林の景観レベルでの炭素、エネルギー、水収支の季節変動に影響を与えている可能性が高いと考えられる。


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