| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-066  (Poster presentation)

葉肉細胞の複雑構造と蒸散速度の関係

*澤上航一郎, 舘野正樹(東大院理・日光植物園)

陸上高等植物の葉は効率良く光合成を行うために進化した器官である。広く薄い葉で光と二酸化炭素を集め、有機物を合成する。表面積を稼ぐことは、光合成効率の上昇につながるが、同時に、陸上植物にとって最も貴重な水を失うリスクも上昇してしまう。葉肉細胞が細く立体的に入り組み表面積を稼ぐ一方で、表皮がこれを水の損失から守る。気孔を介して必要な量の二酸化炭素のみを取り込むことで、蒸散を大きく減少させることができる。葉肉細胞からの蒸発速度が非常に高ければ気孔開度と葉の蒸散速度は比例するが、実際には気孔が開けば開くほど気孔開度あたりの蒸散速度は低下する。このため、葉肉細胞からの蒸発速度も葉の蒸散速度に影響する。本研究では、葉肉細胞の立体構造が蒸散速度に与える影響について検討する。葉表面の空気の流速を調整したガス交換測定装置を用い、葉肉細胞からの蒸散速度と水を含ませたろ紙、それにガーゼおよび疎水性立体構造膜を被せたものからの蒸散速度を比較し、構造が蒸散速度に与える影響を検討した。葉肉細胞表面からの蒸散速度はろ紙からの蒸発速度に対して表側77.7%、裏側71.8%の蒸発速度を示した。表側葉肉細胞の方が高密度であり、面積当たりの蒸散速度が高いが、水面よりも蒸散速度は低い事が示唆された。ガーゼ被覆により、表側は109%、裏側は85.4%の蒸発速度を示し、立体構造による影響が環境によって変わる結果が得られた。これについてはもう少しデータを集める必要がある。疎水膜被覆は厚いほどろ紙表面からの蒸散速度を低下させた。ろ紙表面の水から空気の流れを離すことにより、蒸発速度が低下することが示された。親水性立体構造により構造による蒸散速度の変化を調べたかったが、水の表面張力が高く難しい。素材等についてもう少し検討する必要があると感じた。


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