| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-091  (Poster presentation)

湿生植物の根における給気状況の評価と温度応答 —根内の空隙率と酸素濃度の変化—

*中村隆俊, 本間陽平, 藤原拓也, 中村元香(東京農大 生物産業)

湿生植物は、通気組織を介した地下部への酸素供給(給気)によって、根圏の低酸素環境に適応する。低酸素環境下での根の呼吸は給気に依存しているため、根の呼吸で維持される様々な生理生態活性は根内の利用可能な酸素量によって律速されていると考えられる。従って、根内における酸素の利用可能性(アベイラビリティ)は、湿生植物にとって低酸素環境への適応戦略を左右する重要な要素となる。根における酸素の利用可能性は、根通気組織内における酸素濃度と根の空隙率の両側面から評価する必要がある。しかし、それら2つの要素を視野に入れて給気能力を評価した研究は極めて少なく、詳細は明らかにされていない。一般に根の酸素要求量は温度上昇により指数関数的に高まる。湿生植物の根圏は低酸素状態であるため、高温下では根における酸素の需要と供給のバランスが崩れ、強い酸素不足に陥る可能性がある。従って、温度上昇に伴う根内の酸素利用可能性の挙動は、湿生植物の温度環境に対する分布特性(例えば北方種と南方種)と何らかの関係を示すかもしれない。
本研究では、温度上昇に伴う湿生植物の根内酸素利用可能性の変化を明らかにするために、北方種のヤラメスゲ・オオカサスゲ・ホロムイスゲおよび南方種のヨシ・マコモを用いて、20℃条件と35℃条件下での水耕栽培を行い、根内の酸素濃度や空隙率等について調べた。給気能力の指標とするため、根内酸素濃度は根基部の通気組織内の酸素濃度を測定対象とし、空隙率については根基部の根体積に占める通気組織体積の比率によって求めた。
20℃条件下では、根の酸素利用可能性に関する各パラメータにおいて南・北種間の特徴的な差は認められなかった。しかし、35℃条件下では、根基部の酸素量(酸素濃度×空隙量)が個体あたり・根1本あたりともに南方種において圧倒的に高くなることが示された。


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