| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-099  (Poster presentation)

南極湖底藻類群集のためのカラーパターン形成メカニズムの解明

*水野晃子(名古屋大学・ISEE), 田邊優貴子(国立極地研究所)

南極湖沼群には湖底に数センチに及ぶ底性藻類マットが繁茂している。この底性藻類マットは表層から下層に行くに従って、オレンジ色、黄緑、緑、深緑色のカラーパターンを持っており、藻類の光合成に関連する色素のうち、表層では相対的にカロテノイド類が多く、下層ではクロロフィルが多くなるためにこのカラーパターンが表出されること、表層よりも中層の藻類の光合成活性が高いこと、カラーパターン形成の原因となるカロテノイド類とクロロフィルのほかに、UVに吸光スペクトルを持つMAAやシトネミンなどが表層で多く含まれることなどが調査により明らかになっている(Tanabe et al 2010)
 この現象を説明するため、以前、我々は光生理学的知見を基礎として、光合成色素と光防御色素の両方の吸光スペクトルを層別に最適化するモデルを構築した(Sasaki and Mizuno 2017)。この研究から、1)光合成の色素は相対的に長波長領域、光防御色素は短波長領域に吸光スペクトルが広がること、2)光合成色素と光防御色素の波長領域は重ならないこと、3)表層に光防御色素が多く、下層にいくに従って光合成色素が増加することで、結果として表層よりも中層で光合成活性が高まることなどを確認した。この以前の研究では、色素スペクトルは自由な波形を持つことを前提に最適化を行った。
 今回、我々は実際の南極湖沼の底性藻類マットのカラーパターンを説明するために、実際のマットで存在が確認されている光合成および光防御色素の吸光スペクトルを用いて、それぞれの層で色素保持量を最適化した。この研究から、前回の研究と同様、表層で相対的に光防御色素が、下層で光合成色素が多くなることによって、結果として中層で最も光合成活性が高いという結果が得られた。一方で、色素保持量はスペクトルの最適化モデルとは異なり、層毎の段階的な色素保持量の違いが見られた。


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