| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-141  (Poster presentation)

シロチョウの異なったグルコシノレート組成に対する適応遺伝子の発現応答

*岡村悠(千葉大学 理学研究科), Vogel, Heiko(Max Planck Institute), 村上正志(千葉大学 理学研究科)

一般に植物を餌として利用する植食性昆虫(植食者)は食草に含まれる化学防御物質を解毒する適応形質を保有している。多様性の創出機構として植物と植食者間の、防御–適応形質を基盤とした相互作用は注目されてきたが、植食者の適応形質に関わる分子的、遺伝的な理解は進んでいないのが現状である。アブラナを利用するシロチョウ(Pieridae)は比較的研究が進められているグループであり、シロチョウはnitrile specifier protein (NSP)という酵素を用いてアブラナ目草本に特異的に含まれるグルコシノレート(GLS)と呼ばれる化学防御物質を解毒していることがわかっている。しかしながらアブラナ目からはこれまでに140種類以上の多様なGLSが同定されており、シロチョウがNSPという一種類の酵素のみでこれらの多様なGLSに適応出来ているのかは不明である。そこで、本研究ではNSPとその姉妹遺伝子で機能の不明なMAとSDMAという遺伝子に注目し、GLS組成のことなる食草を用いた際のそれらの遺伝子の発現変動を比較することで、幅広いGLS組成にシロチョウがどの様に適応しているのかを検証した。実験の結果、鱗翅目一般に見られるSDMAの発現量は用いる食草がことなっても変化しなかった。一方で、アブラナ食のシロチョウに特異的なNSPとMAの発現量は餌として用いる食草ごとに大きく異なり、さらにその発現パターンはこの2遺伝子間で異なっていた。シロイヌナズナの突然変異体を用いた追実験から、GLSを含まない植物を餌とした際にはNSPとMAの発現量が低下したことから、これら2つの遺伝子はGLS解毒に寄与し、また、発現パターンの違いからそれぞれの機能は異なっていることが示唆された。これは、シロチョウはNSPだけでなくMAという姉妹遺伝子も用いることで、より幅広いGLSに適応していることを示唆している。


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