| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-153  (Poster presentation)

蝶形花ウジルカンダの裂開のしにくさによる送粉者の限定

*小林峻, 広瀬裕一, 傳田哲郎, 伊澤雅子(琉球大学)

植物が送粉者を選別する方法は,花の形態,色,開花時間,蜜など様々である.哺乳類媒植物であるウジルカンダMucuna macrocarpa(マメ科)は,送粉プロセスに裂開と呼ばれるステップがある.このステップは竜骨弁と呼ばれる花弁の内側にしまい込まれた雄蕊と雌蕊を,送粉者が旗弁を押し上げると同時に翼弁を押し下げることで露出させるステップである.本研究では,送粉者を選別する1つの条件として送粉者の力の強さに注目し,ウジルカンダの裂開に必要な力の強さが,送粉者である哺乳類に適応した形質かどうかを明らかにすることを目的とした.本種は九州から東南アジアまで広く分布しているが,本研究では大分県に生育する個体群を対象とした.大分県における主な裂開者はニホンザルMacaca fuscataである.デジタル・フォースゲージを用いて花の裂開に必要な力の強さを計測したところ,1.632 ± 0.146 (mean ± SD) Nであった.これは,類似した花の構造をもち,ハチに媒介される植物の16~409倍にあたる.本種の生育地にはハナバチ類も生息している.ハチの場合,花蜜を採餌するために訪花しても,花を裂開することができなければ,送粉には貢献しない盗蜜者となる.そのため,盗蜜者を排除できるのかも重要である.本研究の調査地に生息するハチ3種について,それらの体重から裂開する力があるのかを推定したところ,最も体重の重かったキムネクマバチXylocopa appendiculata circumvolansでも0.505 ± 0.040 Nの力しかなく,調査地に生息するハチでは本種の花を裂開できないことが示された.これらの結果は,ウジルカンダの裂開に必要な力の強さが,哺乳類による送粉に適応した形質であり,ハチなどの小型の盗蜜者を排除する役割ももつことを示唆している.


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