| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-179  (Poster presentation)

全ゲノム比較解析より判明した日本侵入後に生じたミジンコDaphnia pulexの遺伝的変異

*大槻朝(東北大・院・生命), 乗松大智(東北大・理・生物), 牧野能士(東北大・院・生命), 牧野渡(東北大・院・生命), 占部城太郎(東北大・院・生命)

日本に広く分布するミジンコDaphnia pulexには、絶対単為生殖を行う4系統(JPN1、JPN2、JPN3、JPN4)が存在する。ミトコンドリアDNAを用いた解析によれば、いずれも北米の集団に由来することが明らかとなっており、日本には数百から数千年前に侵入したのではないかと考えられている。現在各地の湖沼にはこれらのうち単一あるいは複数の系統が生息することが確認されている。系統間あるいは系統内の遺伝子型間での生活史形質の違いはまだ明らかではないが、侵入後の異なる生息環境においてそれぞれが遺伝的変異を蓄積してきたはずであり、形質の違いを生む変異も生じていることが予想される。また個体群が複数系統から構成されている湖沼もあることから、同種内の異なる系統が共存できる何らかの遺伝的な機構が存在することも考えられる。本研究では、既に公開されているミジンコ全ゲノム配列の情報を利用し、日本に存在するミジンコの全ゲノム比較解析を行い、侵入後に生じた遺伝的な特徴について探ることを試みた。
全ゲノムデータをもとに作成した系統関係は、従来のミトコンドリアDNAに基づく結果と同様に、国内のミジンコが4系統に分けられることを確認した。JPN1とJPN2についてはそれぞれ系統内の複数の遺伝子型を用い、侵入後に系統内で生じたと考えられるSNPsの数を調べた。各系統の内部で生じたSNPsはJPN1の方が多いが、同義サイトに対する非同義サイトの比率はJPN2で大きい傾向があった。それらSNPsの中から各遺伝子型に特有のものを検出し、非同義サイトを持つ遺伝子を探索したところ、機能に影響を及ぼすと考えられる変異を持った遺伝子が、いずれの遺伝子型にも複数が存在していた。系統間や系統内に生活史形質の違いがあるとすれば、これらが関係している可能性が考えられる。


日本生態学会