| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-189  (Poster presentation)

地生への適応がCymbidium属の多様化に与えた影響

*茶木慧太(千葉大学・理), 遊川知久(国立科学博物館)

ラン科は被子植物において最も種数の多い分類群であり、この高い多様性をもたらした原因として、着生への進化やそれに伴うCAM型光合成の獲得、花粉塊の獲得など、様々な形質が貢献している可能性が指摘されている。本研究ではCymbidium(シュンラン)属に着目し、その多様化の原因を探った。シュンラン属は主にアジアの熱帯から温帯に60種ほどが分布している。この属には、着生と地生、CAMとC3、独立栄養と従属栄養の種が含まれており、それらの機能が属内の多様性に与える影響を調べるのに好都合である。シュンラン属43種を含む系統樹を作成し、文献情報などをもとに形質データベースを作成した。種分化率に影響を与える形質の候補として、生育立地(着生か地生か)、発芽初期のリゾーム形成の有無、光合成様式(CAM型かC3型か)を調べた。リゾーム形成の有無は菌への依存度の指標とした。これらの系統データと形質データをもとに、Binary-State Speciation and Extinction(BiSSE)モデルを用いてそれぞれの形質ごとの種分化率を推定した。その結果、着生種よりも地生種の、リゾーム形成をしない種よりもする種の種分化率が高いことが分かった。また、光合成形態の違いは種分化率にほとんど差を生まなかった。従来の研究では、ラン科全体の傾向として着生種やCAM型光合成を行うグループの種分化率が高いことが指摘されていた。一方で本研究の結果から、シュンラン属はラン科全体の傾向と違って地生種のほうがより多様化しているグループであり、特に菌への依存度が増したグループにおいてその傾向が顕著であることが分かった。また、光合成形態の差による種分化率の差は見られなかった。このことから、シュンラン属内の多様性を増加させたキーイノベーションは、菌へより強く依存することができる能力の獲得である可能性がある。


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