| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-210  (Poster presentation)

呼吸反応に着目した微生物群集の多様性と生態系機能の関係

*中村瑞稀, 瀬戸繭美(奈良女子大学)

生態系生態学における炭素フローを巡るモデル研究では、生物と環境における炭素貯蔵量とその間の炭素フローに着目されてきた。この中で好気呼吸は有機物の分解に関わる炭素フローであるが、有機物の分解は脱窒、鉄還元、メタン生成などの過程でも行われ、後者は沿岸堆積物や土壌中の有機物分解において量的に重要な役割を果たすことが報告されている。これらの過程は全て微生物がエネルギーを得る過程であり、生物地球化学の分野では生物がエネルギーを得る過程を「呼吸」と表現する。そして呼吸は有機物分解に限らず、生態系の物質循環を駆動している。本研究では呼吸の多様性が生態系機能に及ぼす影響について数理モデルを用いて調べた。
少数の元素の循環からなる仮想的な生態系を想定し、元素には2つだけの存在形態があると仮定した。それらの存在形態間で生じる化学反応(呼吸)を設定し、その呼吸ニッチにおいて微生物はエネルギーを獲得するものとした。このような仮定の下でエネルギー制約に基づく微生物バイオマスの時間変化と物質の反応と移流を連立微分方程式で記述した。各パラメタを確率変数として扱い、モンテカルロ・シミュレーションを行うことで定常状態における元素循環の速度、微生物群の多様性や群集間構造を調べた。
系内で発生する元素循環速度の指標に反応速度の絶対値の和を用いたところ、 定常状態時の元素循環速度は微生物の多様性よりも群集間構造に依存する傾向が見られた。特に、元素をリサイクルし合うパートナーが存在する栄養共生(相利共生)が多く存在するとき、元素循環速度が増加した。系内への元素の流入の速度と流出の速度とを比較したところ、微生物多様性の増加に伴い系内に留まり呼吸に用いられる元素量が増加することがわかった。これらの結果は呼吸の多様性や呼吸を介した群集関係が生態系内の物質循環の駆動に影響することを示唆する。


日本生態学会