| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-229  (Poster presentation)

霧ヶ峰高原の大規模防鹿柵設置がもたらす草原性昆虫及び植物多様性への保全効果

*中浜直之(東京大・総合文化), 岩崎貴也(神奈川大・理), 内田圭(横国大・環境情報), 小山明日香(東京大・農), 尾関雅章(長野県環境保全研), 須賀丈(長野県環境保全研)

 近年のニホンジカの増加に伴う生態系被害や農林業被害が日本各地で多数報告されており、防鹿柵の設置やシカの個体数管理などの対策が各地でとられている。長野県霧ヶ峰高原では大規模な草原が広がり、そこに生育する様々な開花植物は観光資源として利用されているものの、2007年頃からニホンジカによる食害が報告されるようになった。そのため観光資源である花々を保全するために、大規模防鹿柵が同所的に複数設置されている。日本国内で草原生態系に大規模防鹿柵が設置される例は珍しく、霧ヶ峰高原は大規模防鹿柵の複数設置による草原性生物の保全効果の解明に適した地域であるといえる。
 そこで、2017年6月と8月に、長野県霧ヶ峰高原の大規模防鹿柵9か所で50mのライントランセクトを24本設置し(柵外12本、柵内12本)、土壌水分含量、開花植物の花数及び種数、マルハナバチ及びチョウ類の種数と個体数をカウントした。
 その結果、土壌水分含量については柵内外で有意差がなかった。開花植物の花数については、オオヨモギとメマツヨイグサを除くほぼ全種 (26種) で柵内のほうが有意に多いことが明らかとなった。飛翔中のチョウ類については柵の内外で個体数・種数ともに有意差がなかったものの、訪花中のチョウ類、マルハナバチ類については柵内で個体数・種数ともに有意に多かった。さらに、訪花中のチョウ類、マルハナバチ類の種数は開花植物種数と有意な正の相関をしていた。
 このように大規模防鹿柵の設置による各開花植物、チョウ類、マルハナバチ類の保全効果は極めて高いことが示された。今後は、より生物多様性保全効果の高い防鹿柵の設置方法を検討する予定である。


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