| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-234  (Poster presentation)

エゾシカ採食圧による草原植生の消失と回復過程

*渡辺修(さっぽろ自然調査館), 丹羽真一(さっぽろ自然調査館), 渡辺展之(さっぽろ自然調査館), 石川幸男(弘前大学)

 世界自然遺産に指定されている知床半島の先端部に位置する知床岬では、1990年代以降の急激なエゾシカの個体数密度の増加により、草原植生に大きな影響が出ている。エゾシカの選好する高茎草本やササ類が減少・消失し、群落レベルで大きな変化が生じた。その後2007年以降は自然生態系の維持回復のためにエゾシカの捕獲が継続的に実施され、エゾシカの個体密度が大きく減少するとともに、植生の回復が見られるようになった。
 本発表では、この過程を植生分布レベルで把握するため、空中写真判読と現地踏査に基づいて植生分布図を3年代にわたって作成し、その変化を定量的に算出した。エゾシカ密度の増加影響前の植生分布については1978年の空中写真判読と現地調査文献をもとに推定し、エゾシカ増加後および減少後の植生については、2004~2008年と2014~2015年の衛星写真判読と2008~2017年の現地踏査・植生調査結果をもととした。
 その結果、シカ密度増加に伴い、チシマザサ群落とクマイザサ群落は減少し、特にチシマザサ群落は植生としてはほぼ消滅した(6.4ha減)。また、クマイザサ群落とともに草原の主要植生であった湿性高茎草本群落も24.3haがほぼ消失した。これらに代わって、不嗜好植物と牧草類を主体とする変更遷移群落が出現し、28haを占めた。その後、エゾシカ密度の低下と植生の遷移・回復により、偏向遷移群落のうちオオバコ類や牧草類が優占する群落は縮小し、高茎草本群落やクマイザサ群落が増加している。このような植生単位の変化を定量的に把握することにより、エゾシカによる採食量の推定や、個体数調整による各植物の変化を予測することが期待される。


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