| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-278  (Poster presentation)

「コウノトリ」は里山保全を促進するか:市民意識調査からの検討

*水谷瑞希(信州大・教・志賀施設), 菊地直樹(金沢大・地域政策研セ)

 コウノトリは,その生息に多くの餌となる水生動物等を必要とし,またかつての急速な経済発展の歪みの中で野生絶滅に至った経緯を持つことから,里地里山の自然再生のシンボルとなっている。2005年に兵庫県豊岡市で開始されたコウノトリの野生復帰の取り組みは,後に周辺自治体や他県でも始まり,さらに野生化個体の定着や繁殖に伴う生息環境整備も各地に拡がりつつある。これら地方自治体によるコウノトリの野生復帰の取り組みは,コウノトリをシンボルとした里地里山の自然再生の推進を期待してのものである。
 本研究では,コウノトリの野生復帰に取り組む兵庫県豊岡市と福井県越前市で実施した住民意識調査から,コウノトリの存在が地域住民のコウノトリや里地里山の保全に対する意識や選好に及ぼす影響について検討した。コウノトリに関わる事象の認知度について訊ねた設問では,現在の事象の認知度は高かったが,過去の事象の認知度はそれよりも低く,回答者間でばらつきがあった。コウノトリの存在による意識の変化について訊ねた設問では,コウノトリそのものだけでなく,地域の自然環境や地域社会に関する内容を含め,6割~9割が肯定的な回答で,意識の変容は認知度が高い層ほど大きかった。コウノトリの野生復帰のための行動の意向について訊ねた設問では,今後の環境配慮行動に肯定的な層,生息環境整備のための協働作業への参加意向が積極的な層のいずれもが過半数を占め,その割合はコウノトリの認知度が高く,意識の変容が大きい層で大きかった。以上の結果から,コウノトリの存在は,それを認識した市民の意識を変容させ,里山保全に向けた行動を促進する効果があることが示唆された。この効果を活かすためには,認知度の向上・深化に向けた取り組みと,行動意欲を持つ市民への適切な支援が必要であろう。


日本生態学会