| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S01-5  (Presentation in Symposium)

適応進化を考慮した林業の展開と挑戦

*石塚航(道総研・林業試)

日本全土の3分の2を占める森林は、木材生産の場であるのみならず、生態系の基盤を構築し支える役割も担う。ここでの経済活動、すなわち林業は、森林生態系の劣化も危惧されるかつての収奪的な営みから転換し、樹木の種苗を生産して人間の手で林を育成する栽培型の営みが実践されている。ここでは、森林の生産性と健全性をともに高く維持していくため、適した「種苗」を選択し用いることが重要事項として挙げられる。樹木の天然集団はこれまでの進化プロセスの中で自然変異を蓄えているため、より植栽環境に適応する優良種苗は、樹木集団の有する豊富な自然変異から選抜され、活用が図られてきた。中でも、樹木集団が局所適応する場合、種苗の由来地と植栽地のミスマッチは植栽後のパフォーマンス低下につながることが古くより知られる。そこで一般的に、種苗の配布に地域的な制限を設けるゾーニングの手法が導入され、遺伝的攪乱回避の観点からも支持されている。しかし、これからは、さらなる生産性向上に向けた有用形質の改良に加え、将来予測される環境下でも森林の健全性を維持できるような気候変動への適応が求められ、たとえば遺伝子流動の援助によって適応遺伝子の導入を図るなど、より挑戦的な取組みが必要となっている。そのためにも、まずは樹木集団の適応進化とその遺伝的基盤の把握が欠かせない。
本発表では、この実証例として北海道の主要針葉樹を対象とした長期試験を取り上げる。北海道全域で実施された相互移植試験と、異地域間での相互交配試験のそれぞれで植栽後の長期応答を解析し、局所適応の実態と適応的変異の創出・活用可能性について紹介・議論する。


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