| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S06-6  (Presentation in Symposium)

アミノ酸窒素同位体比とアイソスケープを活用した、海産魚類の移動履歴推定

*松林順(海洋研究開発機構), 陀安一郎(総合地球環境学研究所), 大河内直彦(海洋研究開発機構)

アミノ酸レベルの窒素安定同位体比分析の特徴の一つに、その生物が属する食物連鎖における一次生産者の同位体比(ベースライン)を逆算できるという点がある。ベースラインの窒素安定同位体比は、一次生産者の窒素の取り込み方や、硝酸濃度の違い、脱窒作用などによって空間的な異質性が存在する。従って、生物の行動圏内におけるベースライン窒素同位体比の空間分布(アイソスケープ)とその生物のアミノ酸窒素安定同位体比を比較することで、生物の移動履歴の把握に応用できる可能性がある。
本研究では、北太平洋の広範囲を回遊して成長してから母川回帰するサケを対象に、脊椎骨切片ごとのアミノ酸窒素同位体比分析によりサケの食物源のベースラインにおける窒素同位体比の時間的変化を明らかにし、それに基づいてサケの回遊経路を復元することを目標とする。
北海道内の河川に遡上したサケの脊椎骨を10等分し、それぞれの切片からコラーゲンを抽出した。続いて、JAMSTEC所有のGC/C/IRMSでコラーゲンのアミノ酸窒素安定同位体比を測定した。サケの脊椎骨切片の栄養段階(TL)は、成長の初期段階である脊椎骨中心で最も低く(TL=3.0)、辺縁部では高い値を示した(TL=3.5)。各切片におけるベースラインの窒素安定同位体比は-0.6‰から7.9‰まで変動しており、その変動パターンはバルクの窒素安定同位体比とほぼ同様であった(R2=0.754)。従って、サケの窒素安定同位体比の時間的変動パターンは、ベースラインの窒素安定同位体比の変動でほぼ説明できると考えられる。
ベーリング海の各地点で捕獲されたサケの安定同位体比と、脊椎骨から復元したサケの安定同位体比の時間的変化を比較した結果、日本産サケは共通してベーリング海北東域を産卵遡上直前のハビタットとして利用していることが明らかになった。今後、より詳細な海洋アイソスケープを作成することで、サケを含む多くの魚種で高精度な移動履歴推定が可能になると考えられる。


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