| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S15-5  (Presentation in Symposium)

外来植物のリスクとベネフィット:持続的な産業利用に向けた課題

*江川知花(農環研)

外来種は生物多様性の損失をもたらす第3の危機として認識されており、愛知目標でも2020年までに侵略的外来種を制御・根絶することが掲げられている。植物の場合、侵略的外来種として認識されている種には、飼料・緑化資材・果樹・蜜源など産業上のベネフィットをもち、人間の生活になくてはならないものが数多く含まれる。たとえばカモガヤやオニウシノケグサなどの外来牧草は、自然公園等で繁茂し在来種と競合することが問題視されている一方で、家畜の飼料や緑化資材として重要な役割を果たしている。牧草のように産業利用が避けられない外来植物の場合、その野生化個体群を制御・根絶するためには、利用現場から新たな逸出が生じないよう管理を行うことが不可欠となる。このため、2015年3月に公表された「生態系被害防止外来種リスト」および「外来種被害防止行動計画」では、牧草や果樹等の一部が「産業管理外来種」に位置づけられ、利用時の適正管理が呼びかけられた。しかし、これらの種を利用して生計を立てる者にとって、生物多様性保全という恩恵を実感しづらい目標のために手間やお金のかかる管理を行うことは受け容れやすいものではなく、管理が普及しているとは言い難いのが現状である。コストや労力負担等さまざまな問題を乗り越え、外来植物を利用する側とその野生化個体群を駆除する側の双方が納得・協同できる管理体制を構築することは、2030年に向けて取り組むべき重要課題となるだろう。本発表では、外来牧草を例として、そのリスクとベネフィットを整理し、有用な外来植物の持続的な産業利用と生物多様性保全を両立するために必要な研究および政策について議論したい。


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