| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S16-1  (Presentation in Symposium)

趣旨説明:海洋生態学へのいざない

*森田健太郎(水研機構・北水研)

四方を海に囲まれた日本では、古来より海洋に関わる産業や学問が発展してきた。日本における海洋生物学の研究は、海洋学や水産学の中で発展してきた傾向がある。一方、一般的な生態学の枠組みの中での海洋生態学の研究論文は、世界的に見ると日本では少ない傾向にある。本シンポジウムでは、海洋生態学が扱う諸分野ついて概観しながら、その重要性と面白さをアピールしたい。すべての海は繋がっており、また海洋生物は生活史初期に浮遊生活期を持つものが多いため、海洋生物は広範囲に移動・分散する傾向にある。そのため、海洋生物では遺伝的に交流可能な範囲が広く、淡水生物や陸上動物と比べると種内の遺伝的多様性が高くなる一方で、種内の遺伝的構造は比較的単純である。海産魚類では、体サイズに関わらず直径1㎜程度の卵を産み、小卵多産の戦略をとる生物が多い。例えば、たらこで知られるスケトウダラでは、一回の産卵数は10~200万粒、寿命を全うすればさらに多くの卵を産む。そして、海洋生物の多くは生まれて間もない間に死に至る。海産魚の仔魚期の生存率は、1日あたり平均で78.7%と推定され、実に99%以上もの個体が20日間の仔魚期に死亡する。しかし、何らかの条件が良く生き残りが良かった場合には、多産であるがために、卓越年級群と呼ばれるような、個体数が極端に多い同じ年生まれの年齢群が出現し、しばしば大きな個体数変動を引き起こす。卓越年級群が生じるメカニズムや小卵多産の進化的機構について諸仮説が提示さてきたが、未だに不明な部分も多く、十分な解明には至っていない。このような海洋生物の個体群特性と生活史特性は、陸域とは異なる独特な環境条件によって形成されてきたと考えられる。この他にも、海洋生態系に特有の生物生産過程、行動様式、群集構造、そして物質循環過程が形成されてきたと考えられている。これらの諸現象を一般化して捉える事は、基礎生態学の発展にも大いに貢献することが期待されるだろう。


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