| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T06-3  (Presentation in Organized Session)

温暖化・外来種・雲霧帯の複合影響:ハワイにおける植物群集の移動

*小出大(国立環境研究所), 吉田圭一郎(横浜国立大学), Curtis C Daehler(University of Hawaii), Dieter Mueller-Dombois(University of Hawaii)

気候変動や人為撹乱に伴う大きな変動の中で、生物群集は生物間相互作用や分散過程などの様々なプロセスを経て形成される。これらのプロセスは個別に研究が進む一方で、実際の変化は複合的かつ時空間的に異なっている。過去から現在における生物変化の野外実測には、こうした複数のプロセスを経た帰結として重要な意義があり、その紐解きは生物群集の保全や適応を考える上で基礎的な知見となる。そこで本発表では、ハワイ島において1966年から1971年に行われた標高に沿った植生プロットの追跡調査を通して、在来種・外来種間の競争や、分布移動パターンの違いなどを明らかにした事例を紹介する。2010年に行った追跡調査から、約40年分の時間変化を解析した。過去と現在どちらでも分布情報が得られた69種(在来種49種、外来種20種)を用いて、その標高変化をMonte Carlo permutation testによって明らかにした。在来種、外来種ともに分布の平均標高は上昇していたが、分布範囲の変化には両者の違いが見られた。外来種では分布の上限・下限とも上昇していたのに対し、在来種では下限のみが上昇していた。両タイプの下限の上昇には、温暖化に伴う乾燥化が関与していると考えられる。また在来種の分布下限を上昇させた要因には、低標高域における外来種との競争作用も示唆された。外来種の分布上限の上昇には、入植以来の撹乱に伴う分布拡大の継続が寄与していることが考えられる。しかし外来種よりも高標高まで分布している在来種では、貿易風逆転層により気象学的に規定された雲霧帯高度の制約によって、より高標高域の極度に乾燥したエリアへ分布拡大できていないと考えられた。生物群集の変化は在来・外来といった歴史背景や、上限・下限といった空間的位置によって異なり、それらを意識した解析によって障壁作用や競争作用が炙り出された。


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