| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T11-4  (Presentation in Organized Session)

シカ減少期における下層植生衰退度と稚樹食害率の応答

*藤木大介, 高木俊(兵庫県立大学)

 兵庫県では2009年に状態空間モデルによるシカの個体数推定を導入した結果、県内におけるシカの推定個体数が大幅に上方修正された。それに伴い2010年度から、シカの捕獲目標頭数を前年度の1.5倍以上に引き上げる捕獲強化対策を実施してきた。その成果もあって、近年では県内のシカの推定個体数は減少に転じている。
 県内における落葉広葉樹林の下層植生衰退は、2010年以降、衰退の進行は抑制されつつある。しかし、本格的な植生の回復は未だ確認できていない。下層植生を回復させるために必要なシカの管理目標を明らかにするため、2014年時点の下層植生衰退度(SDR)を応答変数に、2010年~2013年のシカの目撃効率(SPUE)の平均値と2010年時点のSDRを説明変数とする順序ロジスティックモデルを構築した。その結果、下層植生の再生には、SPUEを少なくとも0.5以下に減少させた状態で維持することが必要であることが予測された。さらに個体数管理によって、この段階に導くためには、少なくとも10年以上かかることが示唆された。
 一方、県内でシカの個体数の減少が著しい地域では、陽光地において植生の回復が認められる地点が現時点でも出てきている。植生回復の視点からの捕獲効果は、このような陽光地における植生の応答を見ることで、SDRより短期間で評価できる可能性がある。そこで2016年に林縁に生育するアカマツの幼齢木の枝食害率を県内約260地点で収集した。枝食害率を応答変数に、2015年のシカのSPUEと2014年のSDRを説明変数とした一般化線形混合モデルを構築した結果、両変数の効果が認められた。
本研究から、SDRは大幅にシカを減らさないと回復しない一方、枝食害率はシカの短期的な密度変動にも反応することが示唆された。一方で、管理指標として活用するためには解決すべき課題があることも明らかとなった。


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