| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T17-2  (Presentation in Organized Session)

メコン川のダム開発と生態系サービスのゆくえ

*福島路生(国立環境研究所), 冨岡典子(国立環境研究所), 広木幹也(国立環境研究所), Jutagate, Tuantong(ウボンラチャタニ大学)

 インドシナ半島の6か国を流れるメコン川には800種を超える魚類が生息し、世界最大級の内水面漁業が流域に暮らす人々の食料と生計を支えている。一方、この川の流域は、近年の著しい経済発展に伴い電力需要が急増し、発電ダムの建設計画が目白押しでもある。ダム開発は河川の生態系を改変し、回遊魚を絶滅に追い込み、生物多様性と食の安全保障を脅かす。しかし、広大で水深が浅く、適度に富栄養化したメコンのダム貯水池は淡水魚の養殖に適しているとも言われる。メコン川の生態系サービスの行方はどうなるか。一次生産、藻類の動態、淡水魚の回遊などから検討した。

 メコン流域の9つの水界(湖沼とダム貯水池)を対象に、3-4か月毎に2年間行ったモニタリングから次のことが分かった。
1)メコン地域では冷温帯の湖沼と栄養塩条件は違わないが、一次生産量が10倍以上高い。一次生産量に比例してこれら水界の淡水魚類の漁獲量は増大する。
2)有害藻類の藍藻類MicrocystisDolichospermumが、いくつかの水界で極めて高い密度に増殖し、アオコ発生の危険がある。
3)ダム貯水池では魚の炭素源(餌の選択肢)が少なく、食物網構造が自然湖と比べ単純である。
4)ダムで分断された支流では魚類の回遊が著しく制限されている。またメコン本流のダム建設予定地が魚類の重要な回遊ルート上にある。

 メコン川流域に新たなダム貯水池をつくると、漁業生産は潜在的に高くなることが予想される。しかし安定した漁業生産を持続的に享受できるかどうかは疑問が残る。本来、流域を広く回遊するメコンの淡水魚は、ダム建設による分断の影響を間違いなく受ける。新たに建造されるダムによる影響を抑え、良好な水質、高い生物多様性、安定した漁業生産を維持するにはどうしたらよいか。本集会で参加者のみなさんとともに考えてみたい。


日本生態学会