| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) C02-04  (Oral presentation)

信号受信者の受難:雌カエルへの騒音の慢性的な悪影響
Suffering in receivers: negative effects of noise persist regardless of experience in female anurans

*先崎理之(国環研), 角谷拓(国環研), Clinton D Francis(Cal Poly State Univ), 石山信雄(北大), 中村太士(北大)
*Masayuki SENZAKI(NIES), Taku Kadoya(NIES), Clinton D Francis(Cal Poly State Univ), Nobuo Ishiyama(Hokkaido Univ), Futoshi Nakamura(Hokkaido Univ)

現在、人為的騒音が世界中に蔓延しており、動物の行動への騒音の影響が懸念されている。音響マスキング(騒音と動物の音声信号の周波数の重複)は、騒音の悪影響の根底にある主要なメカニズムの一つである。これまで、信号発信者は信号の周波数や音量を変えることで音響マスキングの影響を小さくできること、この能力は騒音への暴露経験を経て獲得されることが解明されてきた。一方で、騒音による注意力散漫や騒音への嫌悪もまた、動物の行動を変えるメカニズムである。しかしながら、動物、とりわけ信号受信者が、騒音への暴露経験を通して、騒音による注意力散漫や嫌悪の影響を小さくできるのかどうかはわかっていない。そこで我々は、騒音への暴露経験が異なる雌のカエル類の音走性行動(雄の声に向かう行動)に対して、騒音がどのように影響するのかを実験的に調べた。具体的には、3つの音声状況下(雄の声と周波数が重複する騒音[マスキング騒音]、重複しない騒音[非マスキング騒音]、無騒音)で、騒音への暴露経験を持つ個体(騒音サイト個体)と持たない個体(静穏サイト個体)の音走性行動を比較した。その結果、静穏サイトの個体と比べて騒音サイトの個体は、非マスキング騒音下で音走性行動をより早く開始し、マスキング騒音に対して明確な忌避行動を示した。しかしながら、無騒音下と比べて二つの騒音下では、いずれのサイトの個体も音走性行動の開始が遅く、雄の声への指向性が失われていた。これらの結果は、雌のカエル類が騒音に対して被る注意力散漫や嫌悪といった影響は、騒音への暴露経験により緩和されるが完全に消えるわけではないことを示す。本研究によって、動物への騒音の影響は音響マスキングの観点からだけでなく、注意力散漫や嫌悪の影響からも注視されるべきことが明らかになった。


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