| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) J01-04  (Oral presentation)

絶滅危惧植物ヤツシロソウの生育環境と季節消長
Habitat and phenology of the threatened plant specie Campanula glomerata L. subsp. (Spreng.) Domini

*高岸慧(東京農業大学・農学部), 田中瞭太郎(東京農業大学・農学部), 佐藤千芳(熊本植物研究所), 宮本太(東京農業大学・農学部)
*Kei TAKAGISHI(Tokyo Univ. Agri. Dep. Agri.), Ryotaro Tanaka(Tokyo Univ. Agri. Dep. Agri.), Chiyoshi Sato(Plant of Kumamoto Labo.), Futoshi Miyamoto(Tokyo Univ. Agri. Dep. Agri.)

 キキョウ科ホタルブクロ属ヤツシロソウは、熊本、大分の阿蘇外輪山に広がる半自然草原に生育する多年性草本である。本種は国内外の分布特性から最終氷期に大陸より分布を広げた大陸系遺存植物と考えられている。本種の生育環境である半自然草原は、草原の利用体系の変化や放棄により遷移が進行し、本種の生育が危惧されている。今後、保全を進めるためには、本種の生態的特性などの情報が必要である。本研究はヤツシロソウの生育特性および生育環境特性を明らかにすることを目的とした。これらの成果は、ヤツシロソウの保全における基礎的な資料になると共に、阿蘇草原の保全にもつながるものと考えられる。
 ヤツシロソウの季節消長は4月に根出葉のみのロゼット個体が、5月に根出葉のみの栄養葉シュートおよび花茎をもつ花茎シュートが確認された。その後花茎伸長が続き、8月に開花、9月に結実し、10月に全てのシュートが萎凋した。ヤツシロソウの生育は北向き斜面と谷部のみに確認され、本種の生育する群落構造はヤマハギ・アキノタムラソウ群落、ツリフネソウ・ヤマアザミ群落に区分された。草原管理された環境下のヤツシロソウは葉数が増加し、節間が短く、未管理区では葉数が減少し、節間が長くなった。また節間長と花序数に負の相関が確認された。
 今回の調査で同一個体で3年続けて開花する個体が確認されたことから、本種は多回繁殖型多年生草本であることが明らかになった。
 ヤツシロソウの生育は、北向き斜面と谷部に限定され、この斜面には大陸系遺存植物であるアソタカラコウやタカネコウリンギクも同所的に生育が確認された。北向き斜面における植物の出現種数は南向き斜面と比較して種多様性が高い事が明らかになった。草原管理が実施されたヤツシロソウの生育動態は光環境の改善により繁殖効率が高まる事が明らかになった。今後阿蘇草原における北向き斜面の種多様性の実態を明らかにする必要がある。


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