| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(口頭発表) K02-02  (Oral presentation)

チシマザサ個体群の長期動態:一斉枯死後の回復過程とクローン成長の寄与
Genet dynamics of a regenerating dwarf bamboo population in a temperate forest understorey

*富松裕(山形大), 谷口稜太郎(山形大), 工藤恵梨(秋田県立大), 金子悠一郎(山形大), 松尾歩(東北大), 齋藤智之(森林総研), 陶山佳久(東北大), 蒔田明史(秋田県立大)
*Hiroshi TOMIMATSU(Yamagata Univ.), Ryotaro Taniguchi(Yamagata Univ.), Eri Kudo(Akita Pref. Univ.), Yuichirou Kaneko(Yamagata Univ.), Ayumi Matsuo(Tohoku Univ.), Tomoyuki Saitoh(FFPRI), Yoshihsia Suyama(Tohoku Univ.), Akifumi Makita(Akita Pref. Univ.)

日本の森林の林床に広く優占するササ類は、地下茎による旺盛なクローン成長を示す。ササ類は長寿命で一回繁殖型の生活環をもち、広い範囲で同調開花・枯死するが、その後は再び個体群を発達させる。しかし、空間をどのように占有しながら個体群を発達させるのか、個体群の空間動態に関するデータは乏しい。秋田県十和田湖畔のブナ林では、1995年にチシマザサ個体群の一部が同調開花・枯死した。これまで、枯死後の約20年間にわたる個体群の回復過程を分析し、(1)成長の速いジェネット(1つの種子に由来する遺伝的に同一の個体)ほど生存率が高く、地下茎を伸ばして広がりやすいこと、(2)回復過程は林床における光環境の不均質性に強く影響され、暗い閉鎖林冠下ではバイオマスの回復が遅いことなどを明らかにしてきた。しかし、同じ森林内でも1995年に開花・枯死しなかった林床では、バイオマス密度が光環境に依らないことから、やがてはチシマザサが森林全体に密な個体群を発達させると考えられる。本発表では、林内に設置されている9m2のプロットを用いて、閉鎖林冠下におけるバイオマスの回復が、周囲の明るい場所からジェネットが広がってくることによって後押しされているのかを調べた。その結果、暗い閉鎖林冠下のプロットにおいてバイオマスの回復に大きく寄与していたジェネットは、周辺の比較的明るい場所から広がっていた。一方、それらのプロット内で発芽したジェネットの広がりは限定的で、ジェネットは比較的明るい場所から暗い場所へと一方向的に広がっていると考えられた。また、閉鎖林冠下のプロットへ周辺から広がってきたジェネットは、プロット内で発芽したジェネットよりも大きなシュート(稈)をつくる傾向があった。以上の結果から、光環境が不均質な林内におけるチシマザサ個体群の回復に、明るい場所から暗い閉鎖林冠下へのジェネットの拡大が寄与していることが示唆された。


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