| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-028  (Poster presentation)

多雪がヒノキアスナロの樹形と遺伝構造に与える影響
Effects of heavy snow adapted tree shape and spatial genetic structure of Thjopsis dolabrata var. hondae

*内木翔大(新潟大学), 松尾歩(東北大学), 陶山佳久(東北大学), Yoichi Hasegawa(Niigata Univ.), 阿部晴恵(新潟大学), 崎尾均(新潟大学)
*Shota Naiki(Niigata Univ.), Ayumi Matsuo(Tohoku Univ.), Yoshihisa Suyama(Tohoku Univ.), Yoichi Hasegawa(Niigata Univ.), Harue Abe(Niigata Univ.), Hitoshi Sakio(Niigata Univ.)

多雪地において植物は、不定根の生じやすさや幹枝の柔軟性、矮性化など、雪に対応した生き方を強いられ、形態や機能、個体群維持様式を変化させる。ヒノキアスナロ(Thujopsis dolabrata var. hondae)は日本の多雪地に分布する針葉樹であり、雪圧に強く伏条や落枝からクローナル成長を行うことや、樹形の多様性が多くの研究者によって報告されており、積雪と樹木の関係を調べる上で適した樹木種である。佐渡島には海岸線から山頂にかけて積雪環境の勾配があるとともに、ヒノキアスナロが標高に沿って広く分布していることから、これを調べるには適した場所である。そこで、本研究では、 1) 積雪がヒノキアスナロの林分構造にどのような影響を与えたか、2) 多雪環境が遺伝構造にどのような影響を与えたかを遺伝マーカーを用いたクローン解析と年輪測定による樹齢構造から明らかにした。調査地は、佐渡島大佐渡山地北部の標高340m~780mの間で10ヶ所選定した。年平均気温は14.8℃、年平均降水量は3234mmである。調査の対象は、樹高1.3m以上の全樹種と、樹高1.3m未満のヒノキアスナロとし、毎木調査と位置図の作成、樹齢測定、斜面雪圧の算出、クローン解析を行った。斜面雪圧は、調査地の最大積雪深からHaefeliの式を用いて算出した。DNAは、改変CTAB法を用いて抽出し、6座のマーカーを使用してマルチプレックスPCRを行った。最大樹高と斜面雪圧との関係は、有意に負の相関を示し、株立ち幹率と斜面雪圧との関係は、有意に正の相関を示したことから、多雪による斜面雪圧がヒノキアスナロの個体サイズを小さくし、樹形を複雑にする要因であると考えられる。クローン解析の結果から、ヒノキアスナロは雪の少ない環境においては有性繁殖の幹が優占し樹形が単幹状になり、積雪の多い環境においてはクローナル成長を行い株立ち状や匍匐状の林分を形成することが明らかとなった。以上のことから、ヒノキアスナロにおいて、クローナル成長は積雪に対する適応的戦略であるといえる。


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