| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-087  (Poster presentation)

社会寄生種ヤドリウメマツアリのホスト転換について
Host change in social parasitism of Vollenhovia nipponica

*近藤薫平, 大河原恭祐(金沢大学)
*Kumpei KONDO, Kyohsuke OHKAWARA(Kanazawa Univ.)

ヤドリウメマツアリは永続的社会寄生種であり、ワーカーカーストを欠失し、女王はホスト種の巣に侵入して、そのワーカーの労働力を利用して繁殖虫を生産する。ヤドリウメマツアリのホストは同属のウメマツアリであるが、本種の女王には長翅型と短翅型の多型が見られ、各女王はそれぞれ独立してコロニーを形成している。また遺伝子解析からもそれらは系統的に異なる集団であることが明らかとなっている。ヤドリウメマツアリの寄生頻度はこの2つの集団間で大きく異なり、中部から南日本に分布する個体群ではヤドリウメマツアリは短翅型女王のコロニーに高頻度で寄生し、長翅型女王のコロニーへの寄生は稀である。また先行研究から長翅型女王集団にはヤドリウメマツアリの繁殖を防ぎ、排除する性質がある事も示唆されている。しかし今回、演者らは山形県飛島に分布する長翅型女王のコロニーでヤドリウメマツアリによる高頻度の寄生を発見した。そのため、この島に分布するヤドリウメマツアリには長翅型女王の排除性質に対する抵抗的性質がある事が予測される。本発表では基礎的観察として島内の長翅型と短翅型女王コロニーに寄生するヤドリウメマツアリ個体の特徴を比較し、寄生行動に違いがあるかを調べた。その結果、両者間には体サイズや卵巣小管数など形態的な差はなく、また巣内でのホストワーカー間との行動にも差異は見られなかった。また体表の炭化水素成分組成をGC分析によって調べたところ、ヤドリウメマツアリの女王はワーカーと類似した組成を持っていた。このことから両者は化学擬態についても同様の戦略を持っていると考えられる。この個体群の発見はアリにおける寄生者とホスト間の軍拡競争、さらに社会寄生の進化と維持機構を調べる上で重要な知見を与えると考えられる。


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