| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-135  (Poster presentation)

亜高山帯林における枯死木の現存量は標高によって変化するか?
Does volume of coarse woody debris (CWD) vary along an altitudinal gradient in the subalpine zone?

*武田宗一郎, 高橋耕一(信州大学)
*Soichiro TAKEDA, Koichi Takahashi(Shinshu Univ.)

 近年,地球温暖化問題に際して,炭素の貯蓄源として森林における枯死木のCoarse Woody Debris(CWD)が注目されている。CWDの現存量は、生木が死亡することで増加し(input),一方でCWDが分解されることで減少する(output)。したがって,CWDの現存量は input と outputのバランスによって決定され,これらは主に温度や植生に大きく影響を受ける。山岳地帯では標高によって環境条件が大きく変化するため, CWDの現存量は標高傾度にそって変化すると予想される。この研究では乗鞍岳の標高1600m ~ 2800mの亜高山帯針葉樹林において,標高傾度にそって生木の地上部現存量,CWDの現存量と腐朽度、分解速度を調べた。
 生木の地上部現存量,CWDの現存量はともに高い標高ほど減少し、CWDの現存量は生木の地上部現存量と強い正の相関がみられた。したがって,標高傾度にそったCWDの現存量の減少は主に生木の地上部現存量の減少によるものであった。生木の地上部現存量は標高1600mと2800mの間で約11倍の差があったが,CWDの現存量はそれ以上に大きい約50倍の差があった。そのため,生木の地上部現存量に対するCWDの現存量の割合は高標高ほど減少した。また、分解速度も高い標高ほど低下し、1600mと2800mの間で約1.6倍の差があった。さらにCWDの腐朽度は高標高ほど低くなった。また,高標高ほど小さなCWDの割合が増加し,2500mを除く全標高で小さいCWDほど腐朽度が低い傾向がみられた。CWDの現存量と生木の地上部現存量の関係を微分式で解析した結果,高標高ほど小さなサイズのCWDが多くなり、速く消失しやすいため,森林の地上部現存量に比べてCWDの現存量は高標高ほど減少することが示唆された。
 以上のことより,個体の成長やCWDの分解を通して標高傾度にそってCWDの現存量は変化し、炭素循環に影響することが示唆された。しかし場所によって環境条件は大きく異なるため、標高傾度にそったCWDの現存量の変化パターンの究明は、より多くの場所での研究が必要である。


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