| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-174  (Poster presentation)

産地別トドマツ苗木の遮光処理に対する生理成長応答 【B】
Growth and physiological responses of Sakhalin fir seedlings of different provenances to shade treatment 【B】

*菅井徹人(北大院・農), 石塚航(道総研・林業試験場), 丸山隼人(北大院・農), 渡部敏裕(北大院・農)
*Tetsuto SUGAI(Hokkaido Univ.), Wataru ISHIZUKA(HRO), Hayato MARUYAMA(Hokkaido Univ.), Toshihiro WATANABE(Hokkaido Univ.)

個葉特性に関する生態学的研究では、種間変異を環境適応的な反応として評価してきた一方で、生育環境が異なる種内の変異を評価した事例は限られている。環境傾度が明瞭な北海道に広く分布するトドマツは、適応形質に関する種内変異の評価モデルとして、寒風害耐性等の産地間差が報告されてきた。個葉特性として耐陰性に優れたトドマツは、弱光を効率的に利用でき、林床等の遮光環境でも生存できる反面、強光の利用能力が劣る。このように、耐陰性の生理特性には、生存と成長のトレードオフ関係が潜在している。ここで、日照時間をはじめとした環境が季節や産地間で大きく異なるトドマツは、耐陰性関連形質を条件に応じて変化させている可能性がある。そこで本研究では、遮光環境において生存と成長に寄与する耐陰性関連形質として、クロロフィル(Chl)量とLMAに注目した。日照勾配とChl量は負の相関を、LMAは正の相関を示すと予想し、産地別苗木の遮光処理に対する生理成長応答を評価した。
分布全域にまたがる4箇所の由来産地別、3年生トドマツを、ポット苗木の状態で1成長期、北海道大学札幌研究林実験苗畑にて生育した。各産地の苗木に対して、2段階の光条件として、遮光区と非遮光区を設定した。結果、全産地のトドマツ苗木は遮光区でChl量が増加、LMAが低下し、耐陰性の高まりが明瞭に観察された。次に遮光応答幅として、光条件間の形質値の比率を算出し、由来産地の時期別平均日照時間と相関分析を行った。Chl量の応答幅はいずれの日照条件とも相関しなかった一方、LMAの応答幅は初夏の日照時間と正に相関した。以上の結果から、トドマツ産地環境の初夏日照時間が長いほど、光条件に応じてLMAを顕著に変化させることが示唆された。耐陰性関連形質のうち、LMAの応答幅には、日照勾配に沿った遺伝的変異があると推察される。


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