| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-190  (Poster presentation)

針葉樹と広葉樹の樹冠構造の違いに見られる樹木の光獲得戦略と森林生産性の関係
Different strategies in light interception of broadleaf and conifer species and their consequences for forest productivity

*吉田雅理(京都大学), 北山兼弘(京都大学), 菱拓雄(九州大学), 小野田雄介(京都大学)
*Masari YOSHIDA(Kyoto Univ.), Kanehiro Kitayama(Kyoto Univ.), Takuo Hishi(Kyusyu Univ.), Yusuke Onoda(Kyoto Univ.)

植物のバイオマス生産は、光獲得量が多いほど、また獲得した光をバイオマスに転換する効率(光利用効率)が高いほど、多くなる。しかし、強光条件下では、光合成は光飽和するため、光エネルギーの大半は、光合成に利用されない。そのため、植物は、土地面積あたりの生産速度を高める戦略として、樹冠上部での過度な光を、樹冠下部へ透過する樹形をもつことが考えられる。一般に針葉樹は、鉛直方向に長い円錐形の樹冠をもつのに対して、広葉樹は幅の広い楕円形の樹冠をもつ。本研究の目的は、このような針葉樹と広葉樹の樹形の違いによる光獲得・利用戦略が、個体成長速度と森林生産速度に与える影響を明らかにすることである。
そこで、本研究では、針広混交林における樹木の成長速度や光獲得量に関する実測と、光環境のシミュレーションを行った。九州大学宮崎演習林の針広混交林内に、50m四方の調査区を設置して、樹木個体の樹冠計測と光環境の垂直分布の測定を行い、個体あたりの光獲得量を推定した。また、調査区内で、5年おきに行なわれている毎木データを利用して、個体成長速度を推定した。さらに、放射伝達モデルと樹冠光合成モデルを用いたシミュレーションにより、単一の樹形からなる純林と、2つの異なる樹形で構成される混交林の、光獲得量と光合成速度および光利用効率を比較した。
実測での解析の結果、針葉樹は、個体あたりでは、広葉樹よりも光獲得量は少ないが、光利用効率は高く、成長速度では有意な差はなかった。つまり、光利用効率の面では、針葉樹が有利であるのに対して、光獲得の面では、広葉樹のほうが有利であることが示された。さらに、シミュレーションの結果、混交林では、円錐および楕円の樹形の純林よりも、光合成速度で7.2%、光獲得量で0.2%、光利用効率で6.9%高い値を示した。つまり、混交林では、異なる樹形の樹木が混交することで、光利用効率が向上し、生産性が増加することが示唆された。


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