| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-213  (Poster presentation)

マイクロCTを用いた多様な交尾器形態の発生過程の解明
Developmental process of divergent genital morphology as revealed by micro CT

*寺田夏蓮(神戸大学), 平山明宏(兵庫県工業技術セ), 高見泰興(神戸大学)
*Karen TERADA(Kobe Univ.), Akihiro HIRAYAMA(Hyogo Pref. Inst. Tech.), Yasuoki TAKAMI(Kobe Univ.)

 体内受精を行う動物の雄交尾器の形態は,分類群間で急速に多様化する形質の1つとして知られている.交尾器形態は性淘汰や種分化に関わるため,様々な分類群で交尾器の機能が調べられてきた.しかし,昆虫の交尾器形態の多様化をもたらす発生学的過程については,未だほとんど分かっていない.
 オオオサムシ亜属は,雌雄の交尾器形態が種特異的に多様化している.本研究は,オオオサムシ亜属の姉妹種で,分化した交尾器形態を持つマヤサンオサムシとイワワキオサムシを対象に,多様な交尾器形態の背景にある発生過程を解明する事を目的とした.
 蛹の発生段階のサンプルを飼育によって用意し,ヨウ素染色の後にマイクロCTで観察した.その結果,オオオサムシ亜属では蛹の期間に種特異的な交尾器形態の分化が生じている事が明らかになった.種特異的な雄交尾器である交尾片が形成されるタイミングは種間で異なり,マヤサンオサムシでは蛹化後4-6日齢,イワワキオサムシでは6-8日齢だった.種特異的な雌交尾器である膣盲嚢が形成されるタイミングも同様で,マヤサンオサムシでは蛹化後2日齢-羽化直前,イワワキオサムシでは蛹化後4-10日齢に急速に成長した.
 本研究の結果は,マヤサンオサムシの交尾片と膣盲嚢はイワワキオサムシよりも早い段階で形成が始まることを示していた.これはマヤサンオサムシの交尾器におけるより大きな構造の形成には時間がかかるためだと考えられ,交尾器形態の多様化における異時性の関与を示唆する.また,雌雄交尾器の形成タイミングは種毎に同調していた.これは,雌雄交尾器の発生機構に類似性があるためかも知れない.本研究によって明らかになった種間の形態分化が生じる発生学的タイミングは,今後の遺伝子発現解析の対象をより詳細に特定しうる点で重要である.


日本生態学会