| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-217  (Poster presentation)

津波によって形成された新規トゲウオ集団間の急速な形態多様化の遺伝基盤
Genetic basis of rapid phenotypic diversification among stickleback populations in novel habitats created by the 2011 tsunami

*細木拓也(国立遺伝学研究所), 森誠一(岐阜経済大学), 西田翔太郎(岐阜経済大学), 久米学(京都大学フィールド研), 永野惇(龍谷大学), 柿岡諒(国立遺伝学研究所), 北野潤(国立遺伝学研究所)
*Takuya HOSOKI(National Institute of Genetics), Seichi Mori(Gifu Keizai University), Shotaro Nishida(Gifu Keizai University), Manabu Kume(Kyoto University), Atsushi Nagano(Ryukoku University), Ryo Kakioka(National Institute of Genetics), Jun Kitano(National Institute of Genetics)

多様な空きニッチの出現は、生物の新規環境進出さらには多様化を引き起こすことが知られている。これまで、幾つかの生物種で、新規環境への進出後の急速な形態分化が報告されているが、分化の初期段階を記載し、その生態的・遺伝的機構を明らかにした例は少ない。そこで、我々は、2011年東北地方太平洋沖地震によって創出された複数の湧水群に進出したトゲウオ科魚類イトヨ属の新規集団に着目し、採餌形質(鰓耙数)の多様性を記載した上で、鰓耙数の多様化の生態的・遺伝的要因を解析した。
まず、津波3年後の新規17集団の鰓耙数を比較したところ、集団間で多様化していた。鰓耙はベントス食に特化した種(淡水型)で少なく、プランクトン食に特化した種(海型)で多いことが知られているが、新規17集団間で環境因子(水質及びベントス量)と鰓耙数を比較したところ、ベントスが多い生息地ほど鰓耙が少ない傾向がみられたことから、適応進化の可能性が示唆された。次に、遺伝的要因を解析するために、RAD-seqによる集団遺伝解析を行った。新規集団のゲノム構成を調べると、イトヨの淡水型及びイトヨとニホンイトヨ(海型種)の雑種が含まれていることがわかった。ニホンイトヨはプランクトン食であり、鰓耙の数が多い。ゲノム組成と鰓耙数を比較したところ、ニホンイトヨの遺伝子浸透率が高いほど鰓耙数が多く、種間交雑が急速な形態分化に寄与していることが示唆された。今後、長期モニタリングと人為的に作出した交雑個体の野外放流実験と、より詳細な集団ゲノム解析を通して、鰓耙の急速な多様化は、適応進化なのか、種間交雑なのか、もしくはどちらかなのかを解明したい。


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