| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-253  (Poster presentation)

糞のDNA試料によるヤクシカ餌植物組成の個体間・地域間・季節間比較
Comparison of plant species composition in fecal DNA sample of Cervus nippon yakushimae: among individuals, locations, and seasons

*東悠斗(九州大学), 矢原徹一(九州大学), 陶山佳久(東北大学)
*Yuto HIGASHI(Kyushu Univ.), Tetsukazu Yahara(Kyushu Univ.), Yoshihisa Suyama(Tohoku Univ.)

ヤクシカが①地域、②季節、③個体ごとにどのような植物種を餌として利用しているかを調べるために、安房林道低標高域(AL)、安房林道高標高域(AH)、宮之浦岳(M)、白谷線(S)、および西部林道(W)で、2018年4月、6月、8月に採取した計184個の野外糞試料からDNAを抽出し、糞に残存する餌植物種の葉緑体DNA断片(rbcL領域)をPCR増幅して、次世代シークエンサーによりその配列を決定した。これらの配列は、被子植物58 Taxa、裸子植物3 Taxa、シダ植物29 Taxaに同定された。シカ1個体あたり1-20 (7.75 ± 3.78OTU, mean±SD) 分類群の植物が検出された。①【地域差】 各地域で多かった餌植物はAL: ブナ科(16%)、スギ(8.5%)、AH: ユズリハ属(21%)、ブナ科(10%)、M:スギ(28%)、ユズリハ属(15%)、S: ブナ科(19%)、タブノキ属(14%)、W: アコウ(29%)、タブノキ属(26%)であり、いずれも常緑性高木種であった。一方で上位15位までを比較すると、高木だけでなくシダ (e.g. イノモトソウ属) や低木 (e.g. キイチゴ属) が全地域で出現した。また、小型の草本がS, W (チドメグサ属)、M (シバ) で出現した。ヤクシカは各地域において高木種を集中して利用し、一方で小型の植物に対しても採食圧を掛け続けている。②【季節差】主要な餌植物の割合は季節間で有意に変化し、6月にブナ科の利用が増える傾向にあった。③【個体差】ブナ科、シダなどの利用割合において、個体間に顕著な差があった。また、高密度の集団ではシカの餌植物組成の個体差が大きくなった。以上の結果から、ヤクシカは常緑性高木種を主に利用していることが明らかになった。常緑性高木が旧葉を落とす6月にブナ科の利用割合が増加したことから、高木の落葉がヤクシカの主要な餌資源であることが示唆された。一方で、シダなどの利用割合が高い個体がどの地域にも見られ、これらの個体が林床植生消失に大きく影響していると考えられる。


日本生態学会