| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-419  (Poster presentation)

氾濫原の利用は渓流魚の成長を促進するか?:個体追跡と胃内容物調査によるアプローチ 【B】
Does growth of stream-dwelling fishes increase in post-snowmelt floodplains? A study with individual tracking and gut contents sampling 【B】

*由井直生(京都大学), 菅野陽一郎(コロラド州立大学), 岸田治(北海道大学), 内海俊介(北海道大学), 坂井励(北海道大学), 間宮渉(北海道大学), 宇野裕美(京都大学)
*Naoki YUI(Kyoto University), Yoichrou Kanno(Colorado State University), Osamu Kishida(Hokkaido University), Syunsuke Utsumi(Hokkaido University), Rei Sakai(Hokkaido University), Wataru Mamiya(Hokkaido University), Hiromi Uno(Kyoto University)

氾濫原は生産性が高く、氾濫原を利用する魚類の成長や生存率も高いことが知られている。そして氾濫原は、後背湿地・河跡湖・側流などが存在し空間的異質性に富む場所であるが、それらの環境の違いが魚の成長に与える影響はよく知られていない。氾濫原集水域の中の生息地間で魚類の成長は異なるのだろうか。この疑問に答えるため、融雪による氾濫期前後にイワナ(Salvelinus leucomaenis)の成長とその採餌物を氾濫原集水域の様々な生息地と河道で比較した。北海道のブトカマベツ川の本流・本流の河跡湖・支流の氾濫原下流・支流の氾濫原・氾濫原周囲の池群・支流上部の6つのサイトで、氾濫のピーク・氾濫の収束期・収束後の時期に調査を行った。イワナは個体識別し、その個体を再捕獲することで成長を測定した。同時にイワナから胃内容物も採取した。各サイトのイワナの胃内容物と比較するために環境中の底生生物を採取した。
氾濫の収束期に、本流の河跡湖と支流上部でのイワナは他のサイトに比べ有意に成長していたが、この結果にはそれぞれ異なる理由が推定される。支流上部では胃内容物の重量が氾濫ピーク時に他のサイトに比べて有意に多く、このサイトでは餌の量が成長を促進したと考えられる。一方の河跡湖では他のサイトと胃内容物の重量に有意差はなく、餌の量が成長の差を生んだとは言えない。河跡湖のイワナの胃内容物の重量はほかのサイトとの間に有意差はないが、調査期間は安定して水生昆虫を食べており、他のサイトでは氾濫が収束するに従って水生昆虫が減り、主食が陸生昆虫に移行するという結果と対照的であった。この河跡湖は、他のサイトよりも水温が安定しており水流もほとんどなく、このような物理的特徴と餌の組成が魚の成長を促進した可能性がある。
以上、氾濫原にある生息地間でも水温の安定性や水流などの物理的環境および水生/陸生昆虫などの餌の量が異なり、そこに住む魚類の成長にも差があるということが分かった。


日本生態学会