| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-476  (Poster presentation)

低密度期ニホンジカ Cervus nipponの餌植物嗜好性と、その季節・年変動 【B】
Food preference of sika deer in a low-density population and its annual and seasonal variation 【B】

*河合純(筑波大学)
*Jun KAWAI(University of Tsukuba)

ニホンジカ(以下、シカ)は日本の多くの地域で個体数が増え、その過剰な採食による自然植生の劣化・裸地化は、現在進行中の最大の環境問題の一つである。シカは低密度では餌を選り好みし、植物種毎で嗜好性が異なると考えられるが、密度が高くなると、採食する植物種数が増え、嗜好性が不明瞭になる。これまで、観光資源植物が消失・減少した事例報告はあるが、嗜好性植物が減る以前の低密度期に植物群集全体にわたる嗜好性を定量した研究はほとんどない。そこで本研究では、低密度期のシカの嗜好性を出現植物種全体に対して定量するとともに、植物の種特性と嗜好性との間の関係を調べた。
本研究では、シカ密度が低い長野県菅平高原において、草原・森林(全9地点)にそれぞれ1×100 mのトランセクトを設け、2017年秋と2018年夏・秋に維管束植物種ごとの出現・食痕有無・食痕個体数を調べた。また、各調査地の1×1000 mの範囲を2017年夏と2018年夏にルートセンサスして糞塊数を数えた。
計204種の植物が出現し、48種で食痕が見つかった。食痕植物種は季節変化した。糞塊密度は年間で大きな変化はなかったが、食痕種数・食痕個体割合は秋期間で2017年の方が多かった。また、全ての調査回で、食痕種数・食痕個体割合・糞塊密度は森林の方が多かった。食害植物種の嗜好性を平均食痕割合によって順位付けすることができ、オニシモツケ・コマユミへ嗜好性が特に高かった。重回帰分析の結果、草本植物種と人に山菜利用される植物種がシカに嗜好された。非山菜植物種の中では、背丈が高い植物種ほど嗜好された。
菅平にはシカとカモシカが同所的に生息しており、シカ食痕とカモシカ食痕を識別することが難しい。シカ糞塊とカモシカ糞塊の識別は可能であり、今回の糞塊のほとんどがシカのものと識別でき、かつ、シカ糞塊増加と食痕数増加が良く対応していたことから、今回の食痕は主にシカによると考えられる。今後、食痕サンプルのDNA分析によって摂食動物を識別する予定である。


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