| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-489  (Poster presentation)

住宅団地内の空地は草原生植物のレフュージアになるか?
Potential of vacant spaces in residential areas as refugia of grassland species

*小倉梨央奈(東大・農), 小山明日香(森林総合研究所), 大黒俊哉(東大・農)
*Riona OGURA(The University of Tokyo), Asuka KOYAMA(FFPRI), Toshiya OKURO(The University of Tokyo)

半自然草地の維持管理が生物多様性保全上の課題となっている中で、水田畦畔や林縁など、現在まで管理が継続されている比較的小規模な草地が近年保全対象として注目されている。本研究ではこうした小規模草地のひとつとして住宅地内の空閑地に着目し、その中での草原生植物の出現・残存要因について検討を行った。調査対象地は、かつて採草地や畑、林地が分布し、林縁に草原生植物が生育することが知られている茨城県つくば市内の住宅地とした。各住宅地の土地利用条件については、迅速測図や空中写真の判読により分類を行った。また、各住宅地内の空閑地において植生、土壌の調査を行い、草刈り等の管理の状況を推測するため、優占種群の生活型により群落タイプの分類を行った。草原生植物については、先行研究にある種子散布・埋土種子の特性による分類を用いて3グループに分け、各グループの種群について、一般化線形混合モデルを用いてその在不在に影響する要因の分析を行った。調査の結果、ワレモコウ(Sanguisorba officinalis)、アキカラマツ(Thalictrum minus var. hypoleucum)等の草原生植物が17種確認され、半自然草地にみられる種の多くを欠くものの、住宅地内の空閑地においても一部の草原生植物が生育していることが明らかになった。また、種群の出現に影響する要因は分散特性のグループによって異なっており、特に短距離分散の種群では、1950年代以降に畑として利用された地区で出現しにくい傾向がみられた。こうした種群では種が生育できる環境が途切れずに維持されてきたことが重要になっていると考えられ、今回の対象地の一部でこのような環境が維持されてきたことが推測された。また、埋土種子を作る種群では優占種タイプの影響がみられたことから、空閑地の管理状況が影響している可能性も考えられた。今回の結果より、住宅地内の空閑地における草原生植物の保全のうえで、過去の土地利用履歴に着目しながら空閑地を維持することの重要性が示唆された。


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