| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-128  (Poster presentation)

可視光変動光が光合成系に与える影響と遠赤色光による補光効果
Effects of fluctuating light on photosynthesis in the absence and presence of far-red light

*河野優(東京大学), 鈴木祥弘(神奈川大学), 矢守航(東京大学), 寺島一郎(東京大学)
*Masaru KONO(Univ. Tokyo), Yoshihiro Suzuki(Kanagawa Univ.), Wataru Yamori(Univ. Tokyo), Ichiro Terashima(Univ. Tokyo)

Emerson(1943)が示したように遠赤色光(700 – 800 nm)は光合成をほとんど駆動しない。このため、遠赤色光が光合成に与える影響は無視され続けてきた。しかし、遠赤色光は光化学系I(PSI)を優先的に励起する。近年、自然環境下で見られる光強度の急激な変動(変動光)が主にPSIを標的としたストレス要因になりうることが分かり、植物の応答とともに遠赤色光の重要性が注目されつつある。本研究は、変動光が植物の光合成におよぼす影響を調べた。特に、光合成酸素発生や炭酸固定を直接には駆動しない遠赤色が変動光応答に与える影響に注目した。暗処理したシロイヌナズナの葉に、弱光背景光下、木漏れ日を模した10秒毎の1秒間のパルス強光を、最大2時間照射したところ、PAMクロロフィル蛍光法で測定した光化学系II(PSII)の最大量子収率はほとんど低下しなかった。一方、820 nmの吸収で測定した機能的なPSIの量は変動光処理時間とともに減少した。この変動光に、一定強度の 遠赤色光を補ったところ、光阻害はほぼ完全に抑えられた。遠赤色光によるPSIの熱散逸活性の促進と代替電子伝達経路の駆動が光阻害の回避に有効であった。変動光によるPSI光阻害の程度は、植物種や生育光環境によって様々であったが、遠赤色光によってすべての植物の光阻害は完全に抑えられた。光阻害を起こさない変動周期の緩やかな変動光(数十分周期の光強度変化)下では、強光から弱光に移行したときの光合成速度が遠赤色光存在下で有意に高かった。定常弱光下では、遠赤色光による光合成速度の増加は見られなかった。変動光における、強光から弱光移行後の光合成速度の促進は, PSIIアンテナでの熱散逸機構の素早い解消をともなった。さらに、野外遠赤色光の強度変化、PSI活性への影響を評価した。これらをもとに、変動光下での遠赤色光の役割を議論する。


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