| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-161  (Poster presentation)

エゾタチカタバミの花の開閉運動について
Open-close movement of yellow wood sorrel (Oxialis stricta)

*Akio IMAMURA, Kota Hariu(HUEA)

 花の開閉運動は、被子植物の多くの系統に普遍的に見られる。古くはダーウィンも研究した現象だが、その究極要因は未だ解明されていない。では、なぜ花は開閉運動をするのか。本研究では、閉じた花冠が雌蕊を保温し種子生産の低下を防いでいるという仮説を立て、花の開閉運動の適応的意義を実験的に検証した。
 本研究では、多年生草本のエゾタチカタバミOxalis stricta L. を用いた操作実験を実施した。花弁を除去して開閉運動を阻害した処理群と無処理の対照群について、開花1回あたりの花数を1に摘花し、強制自家受粉を施し、開花から種子の成熟まで栽培した。人工気象器を用い、明期温度を25℃、暗期温度を23℃、18℃、13℃、8℃の4段階に設定した。雌蕊温度については24時間測定を2回実施し、さらに結実の有無、1花あたりの種子数、1花あたりの合計種子重量を計測した。
 その結果、暗期における雌蕊温度は、対照群で有意に高かった (Whelchのt検定)。結実率には群間で有意差はなかったが、種子数、種子重量については対照群で有意に大きかった (Brunner-Munzel検定)。結実の閾値温度はロジスティック回帰により、処理群で21.4℃、対照群で16.3℃と推定された。開花から種子散布までの有効積算温度の平均は処理群で9064.0℃•時、対照群で8029.6℃•時であった。この結果より、花期の6月1日−10月31日における繁殖回数を、1990年−2018年の各年において算出した。また、エゾタチカタバミの開花ごとの花数が最大3であることから、種子生産数の期待値を「1花あたりの平均種子数×3×繁殖回数」とした。このとき、繁殖回数と開花年あたりの繁殖期間での総種子生産数数の期待値は、どちらも対照群が有意に大きかった (Whelchのt検定)。したがって、花の開閉運動には花冠内部の保温効果があり、生涯で散布できる種子数の期待値を向上させる、という適応的意義があると考えられる。


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