| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-165  (Poster presentation)

サラシナショウマの3送粉型間での繁殖様式の分化は送粉者数の季節変動に対応している
Differentiation of reproductive systems in three pollination morphs of Cimicifuga simplex is associated with seasonal changes of pollinator abundance.

*田路翼, 石本夏海, 市野隆雄(信大・理・生物)
*Tsubasa Toji tsubasa TOJI, Natsumi Ishioto, Takao Itino(Shinshu University)

 サラシナショウマには、異なる生態的特徴を持ち、遺伝的にも分化した3つの送粉型(タイプⅠ・Ⅱ・Ⅲ)が存在する。送粉者としては、夏に咲くタイプⅠでは比較的マルハナバチ類が多く、夏~秋に咲くタイプⅡにはチョウ類が訪れ、晩秋に咲くタイプⅢにはアブ・ハエ類が主に訪れる。また、それぞれのタイプごとに繁殖様式が異なっている。タイプⅠでは両性株の他に雌性株が高い頻度で見られ、タイプⅡでは両性株と雄性両全性株(両性+雄性個体)が主に見られる。タイプⅢはほとんどが両性株で、自殖率が高い。本研究では、サラシナショウマの3タイプが異なる繁殖様式を持つ理由を送粉者環境と関連させて検討した。
 送粉者の「量」(時間あたり訪花頻度)と「質」(一回訪花あたりの結果率)をそれぞれ2年間にわたって測定したところ、訪花頻度はタイプⅠでは花期を通して高く、タイプⅡでは花期の最初期と後半において著しく低く、タイプⅢは花期を通して低かった。また、タイプⅠに訪れるマルハナバチ類は高い送粉能力を持ち、タイプⅡに訪れるチョウ類およびハエ類の送粉能力は低かった。タイプⅠにおける高い訪花頻度と送粉能力は集団内の過剰な花粉供給を引き起こすと考えられ、このため花粉の受け取り手である雌性株が集団内に維持できると考えられる。一方、タイプⅡの花期の後半には送粉者不足による花粉制限が生じることにより、雄性花が花粉の供給源として機能するため集団内に維持されると考えられる。タイプⅢは季節を通して訪花頻度がかなり低く、繁殖が保証される自殖を行うようになったと考えられる。以上のように、サラシナショウマは、それぞれ異なる送粉者環境に適応して繁殖様式を分化させた可能性がある。


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