| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-181  (Poster presentation)

スイセンハナアブの訪花習性と体色の進化
Floral preferences and evolution of polymorphic body color of Merodon equestris (Diptera, Syrphidae)

*須島充昭(東大総合文化)
*Mitsuaki SUTOU(The University of Tokyo)

演者はこれまでに、本州の4地点(東京、横浜、埼玉、仙台)でスイセンハナアブの捕獲調査をおこない、捕獲時に訪花していた個体についてはその植物名を記録した。その結果、これまでに8科21種の植物を本種の訪花植物として記録した。最も頻繁に訪花していたのはキク科植物で、21種中9種を占めた。スイセンハナアブは、原産地であるヨーロッパでは、キク科やセリ科をよく訪花すると報告されている。今回の日本での調査では、これまでのところセリ科への訪花は記録していない。地域により植物相や花期が異なる影響を受けていると考えられる。また、今回記録した植物のほとんど(19種)は草本植物で、木本ではバラ科の低木2種が低頻度で訪花されていたのみだった。草本を好む傾向は、原産地と侵入地とで共通であると予想される。ハナアブ科の成虫は通常訪花習性を持っているが、訪花植物の選好性はある程度幼虫期の生態の影響を受けることが知られている。例えば森林性のハナアブ(幼虫が樹洞で発育する等)では、成虫は草本だけではなく木本も活発に訪花する。スイセンハナアブの場合、幼虫は単子葉植物(ヒガンバナ科やユリ科)の球根を摂食し、成虫は草本植物を好んで訪花する。本種は活発に飛翔するが、採餌、交尾、産卵等、重要な生態はいずれも地上付近で行われるという特性を持っている。またスイセンハナアブには様々な毛色の個体が現れる顕著な色彩多型が知られており、複数種のマルハナバチに擬態していると考えられてきた。一方、上で述べたような本種の生態的な特性を考慮した場合、例えば茶色い毛色は地面付近で隠蔽色としても働く可能性が高い。スイセンハナアブの色彩多型は、隠蔽色と警告色(擬態)の混成として進化した可能性がある。どちらの重要性が増すかは、環境に依存すると予想される。


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