| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-343  (Poster presentation)

栃木県におけるニホンジカを介したニホンヤマビルの分布拡大
The range expansion of Haemadipsa japonica via Cervus nippon in Tochigi Prefecture.

*森嶋佳織(東京農工大学大学院), 小金澤正昭(宇都宮大学), 福井えみ子(宇都宮大学), 中野隆文(京都大学), 逢沢峰昭(宇都宮大学)
*Kaori MORISHIMA(Tokyo Univ. of A & T), Masaaki Koganezawa(Utsunomiya Univ.), Emiko Fukui(Utsunomiya Univ.), Takafumi Nakano(Kyoto Univ.), Mineaki Aizawa(Utsunomiya Univ.)

近年、全国的にニホンヤマビル(Haemadipsa japonica;以下、ヤマビル)の吸血被害が増加しており、その要因の一つにニホンジカ(Cervus nippon;以下、シカ)などの大型哺乳類を介した分布拡大が示唆されている。しかし、大型哺乳類を介したヤマビルの分布拡大がどの程度の範囲で起きているのか明らかになっていない。栃木県には地理的に離れた南北のヤマビルの分布域があり、演者らによる核マイクロサテライトマーカーを用いたヤマビルの遺伝構造解析の結果、南北間で遺伝的分化がみられた。仮に、栃木県のヤマビルの主要な宿主動物がシカであり、かつ県内のシカのミトコンドリアDNA型(ハプロタイプ)に南北の遺伝的分化があれば、県の南北間でのシカを介したヤマビルの移動は起きていないと考えられる。すなわち、南北の各地域に分布するヤマビルの吸血液中のシカのハプロタイプが、シカ自身の南北のハプロタイプとそれぞれ対応していれば、この仮説は支持される。本研究では、この仮説を検証した。材料には、シカについては南西部6集団、北東部2集団(計8集団)から採集した23頭のメスジカの筋肉または肝臓を使用した。また、ヤマビルについては、県の南北各2集団(計4集団)から採集したヤマビルの消化管に残る宿主動物の血液塊を使用した。これらの材料から全DNAを抽出し、ミトコンドリアDNAの16S rRNA領域の塩基配列を決定した。その結果、シカ自身のハプロタイプには南北間で地理的なまとまりがみられた。また、塩基配列情報を基に27匹のヤマビルの宿主動物(ヒトを除く)を同定できた。このうち、19匹の宿主動物はシカと同定され、そのハプロタイプはシカ自身のものと対応して、県の南北間で異なっていた。したがって、栃木県のヤマビルの分布拡大は主としてシカを介して起きているが、いずれも南北の各地域内で限定的に生じていると考えられた。


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